
「うちにはパソコンに強い社員がいない。AIの話を聞いても、だれに任せればいいのか分からない。」社長からこうしたお話をうかがうことがよくあります。IT担当の部署はなく、ソフトの設定はいつも取引先の業者さんか、少し詳しい若手の社員にお願いしている。そんな会社は珍しくありません。
けれども、AIを使い始めるのに、プログラムを書ける人は要りません。要るのは、最初の3か月で何を決め、何を試し、どこで止めるかの段取りです。
この記事では、詳しい社員がいない会社が、来月から3か月でAIを毎日の仕事に入れるまでの進め方を、月ごとに説明します。
詳しい社員がいなくても進む理由
AIを入れられない理由として、「詳しい人がいない」はよく挙がります。中小企業基盤整備機構の調査でも、AIの導入を妨げるものとして「社内の IT/AI ノウハウ不足」が42.0%ありました。悩んでいるのは御社だけではありません。
ただ、いまの生成AI(文章で頼むと文章や表を返すAI)は、画面に日本語で頼みごとを書くだけで使えます。メールが打てる方なら、操作そのものは覚えられます。
進まない会社で足りないのは、技術よりも次の3つです。
- 決める人:どの仕事でAIを使うか、何を入れてはいけないかを決める人(多くは社長)
- 試す人:いつもの仕事でAIを使ってみて、使えたかどうかを言葉にする人
- 区切り:いつまでに何ができたら次へ進むか、という目安
試す人は、パソコンに詳しい必要はありません。むしろ、その仕事をふだんやっている人が向いています。手間のかかる所と、間違えてはいけない所を知っているからです。
帝国データバンクの茨城県内の調査では、生成AIの懸念として「生成 AI を活用すべき業務の範囲」が42.2%で最も多く挙がりました。どこに使うかが決まらないことが、県内でもいちばんの迷いどころです。3か月の段取りは、この「どこに使うか」を先に1つに絞るところから始めます。
3か月の全体の段取り
先に、3か月の流れを1枚の表にしておきます。社内で共有するときも、この表をそのまま使えます。
はじめの3か月の段取り| 月 | やること | 決める人 | 終わりの目安 |
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| 1か月目 | 会社の名義のアカウントを用意し、入れてよい情報・いけない情報を決める。試す仕事を1つ選ぶ | 社長 | 決めごとが紙1枚にまとまり、試す人が全員読んでいる |
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| 2か月目 | 選んだ仕事で、いつもの書類を使ってAIに下書きを作らせる。使えた所と直した所を記録する | 試す人(社長は週1回目を通す) | 同じ書類で3回以上試し、続けるかどうかを決められる |
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| 3か月目 | 使えた仕事を毎日の手順に入れる。頼み方を社内の共有の場所に残す。次の仕事を1つ選ぶ | 社長と試す人 | 試す人以外の1人が、残した頼み方で同じ仕事をできる |
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どの月も、「終わりの目安」に届かなければ、次の月に進まずにもう1か月かけて構いません。3か月はあくまで目安です。大事なのは、1つの仕事をやり切ってから次へ進むことです。
1か月目:アカウントと決めごとを整える
最初の1か月は、AIで何かを作るより、使う前の準備に充てます。ここを飛ばすと、社員が思い思いに個人のアカウントで使い始め、何の情報がどこに入ったのか分からなくなります。
1か月目にやること
- 使うAIのサービスを1つに決め、会社の名義でアカウントを用意する(個人のアカウントで仕事の情報を扱わない)
- 入力した内容がAIの会社の学習に使われない設定になっているかを確かめる
- 入れてよい情報と、入れてはいけない情報を紙1枚に書く(お客さまの名前や電話番号、取引先との金額などをどう扱うか)
- AIの答えは間違えることがあるので、外に出す文や数字は人が確かめる、と書き添える
- 試す仕事を1つ選び、試す人を1〜2名決める
2番目と3番目は、個人情報保護委員会が生成AIサービスの利用について出している注意喚起でも、確かめるよう挙げられている点です。個人情報を入れるときは利用目的の範囲内か、入れた情報が学習に使われないかを確かめるよう呼びかけています。
例:決めごとの紙1枚に書く5行
①使うのは会社の名義のアカウントだけ。②お客さまの名前・住所・電話番号は入れない(入れる必要があるときは社長に聞く)。③取引先との金額や契約の中身は入れない。④AIが作った文や数字は、外に出す前に担当が読んで確かめる。⑤迷ったら入れずに、試す人か社長に聞く。最初はこの程度で十分です。使いながら、困った場面が出るたびに1行ずつ足していきます。
試す仕事の選び方
最初の仕事は、次の3つに当てはまるものから選ぶと進めやすくなります。
- 週に何回も出てくる(試す回数を稼げる)
- 間違えても外に出る前に人が気づける(社内向けの文書など)
- いつもの形が決まっている(見本にする書類がある)
社内の会議の議事録、取引先へのお礼や日程調整のメール、社内のお知らせ文などが当てはまりやすい仕事です。請求書や見積書のように金額が外に出る書類は、慣れてから選ぶほうが安心です。
2か月目:いつもの書類で試す
2か月目は、選んだ仕事で実際にAIを使います。新しい書式は作らず、いつも使っている書類をそのまま見本にします。
例:週1回の営業会議の議事録
例として、従業員40人ほどの会社で、毎週の営業会議の議事録を総務の担当が1時間ほどかけて清書していたとします。2か月目は、会議のメモ(手書きのメモを打ち直したもの、または録音を文字に起こしたもの)と、先月の議事録を1枚AIに見せ、「この形でまとめて」と頼みます。出てきた下書きを担当の方が読み、直した所に印を付けます。これを4回の会議でくり返すと、どこを毎回直しているかが見えてきます。
試すたびに残す3行
試した結果は、毎回3行だけ残します。長い報告書は要りません。
- そのまま使えた所
- 直した所と、直した理由(言い回し・数字・抜けていた話題など)
- 次に頼み方をどう変えるか
例の議事録なら、「決まったことと宿題が混ざる」と毎回直しているなら、頼み方に「決まったこと・宿題・次回までの確認の3つに分けて」と書き足します。こうして頼み方が少しずつ固まっていきます。
社長は週に1回、この3行に目を通してください。社長が見ていると分かるだけで、試す人は続けやすくなります。また、「この数字はAIに任せないでほしい」といった判断は、このときに伝えると早く反映できます。
続けるかどうかの決め方
2か月目の終わりに、続けるか、別の仕事に替えるかを決めます。目安は、直す量が回を追うごとに減っているかどうかです。毎回同じくらい直しているなら、その仕事はAIの下書きに向いていないか、頼み方に足りないものがあります。無理に続けず、1か月目に挙げた別の候補に替えて構いません。
3か月目:毎日使う形にする
3か月目は、試してうまくいった仕事を、試す人だけのものから会社の手順に移します。ここで止まる会社が多いので、次の3つを決めてください。
- 頼み方の置き場所:固まった頼み方の文と、見本にする書類を、社内の共有フォルダなど決まった場所に置く
- 確かめる人:AIの下書きを、だれが、どこを見てから使うか(例の議事録なら「宿題の担当者と期日は会議の出席者に確かめる」)
- 手順書の1行:その仕事の手順書に「下書きはAI、確認は担当」と書き込む
3か月目の終わりの目安は、試す人以外の1人が、置いてある頼み方を見て同じ仕事をできることです。できれば、試す人が休んでも回る形になっています。
次の仕事は、少し手間の大きいものを
1つ目がうまく回ったら、次の仕事を選びます。2つ目は、毎日の集計や、取引先ごとに形の違う書類の整理など、もう少し手間の大きい仕事を選ぶと、効果を感じやすくなります。
ただし、毎日同じ形で大量に回す仕事は、画面に1件ずつ頼む使い方では手間が残ります。そうした仕事は、AIを組み込んだ自社専用の道具にしたほうが向いています。3か月目は、その見極めをする時期でもあります。
前と後を、時間で比べておく
毎日の手順に入れる前に、AIを使う前と後で、その仕事に何分かかったかを書いておきます。例の議事録なら、清書に1時間かかっていたものが、下書きを読んで直すだけで20分になった、という比べ方です。数字は会社や仕事によって違うので、ほかの会社の数字ではなく、自社で測った数字を使ってください。
この記録は、次の仕事を選ぶときの判断材料になり、社内で「AIを続けるかどうか」を話すときの説明にもなります。
3か月でつまずきやすい所と、立て直し方
詳しい社員がいない会社では、つまずく場所がだいたい決まっています。先に知っておくと、止まりかけたときに立て直せます。
はじめの3か月でつまずきやすい所| 時期 | よくあるつまずき | 立て直し方 |
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| 1か月目 | 決めごとを細かく作り込もうとして、いつまでも試せない | 紙1枚・5行で始め、困ったら足す形に切り替える |
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| 1か月目 | 試す仕事を3つも4つも同時に選んでしまう | 週に何回も出てくる社内向けの仕事を1つだけに絞る |
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| 2か月目 | 忙しい週に試すのを飛ばし、そのまま止まる | 会議の直後など、試す日を決まった仕事に結びつける |
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| 2か月目 | AIの答えに1回つまずいて「使えない」と決めてしまう | 同じ書類で3回は試し、直す量が減るかで判断する |
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| 3か月目 | 試す人しか頼み方を知らず、休むと止まる | 頼み方と見本の書類を共有の場所に置き、別の1人にやってもらう |
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どのつまずきも、社長が週に1回、3行の記録に目を通していれば早く気づけます。社長がAIを操作できる必要はありません。進み具合を見て、止まっていたら声をかける役で十分です。
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初回のご相談(無料・30分〜)はオンラインで行います。いま手間のかかっている仕事をうかがい、その場でAIを使って、動くものを1つお見せします。
AX推進顧問(月2回の定例・最低3か月)では、この記事の3か月を一緒に進めます。初回の定例で、AIを使える仕事の一覧と、取り組む順番をお渡しします。ふだんの表や書類などのデータがあれば、その場で試作もお見せします。AIに入れる情報の線引きも、始める前に御社の決まりに合わせて一緒に決めます。
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まとめ:決める人と試す人を、今週中に1人ずつ決める
- 詳しい社員がいなくても、決める人・試す人・区切りがあれば進められる
- 1か月目:会社の名義のアカウント、入れてよい情報の紙1枚、試す仕事を1つ
- 2か月目:いつもの書類で試し、毎回3行を残す
- 3か月目:頼み方を置き場所に残し、ほかの1人でも回る形にする
まずは今週中に、決める人(社長)と試す人を1人ずつ決めてください。試す仕事の候補を3つ書き出せたら、1か月目の準備は半分終わっています。