
社長から「社員がAIを使い始めているらしい。ルールを作っておいて」と頼まれた。インターネットで「生成AI 利用規程 ひな形」と調べると、何ページもある大企業向けの規程が出てくる。そのまま使うには重すぎ、どこを削ればよいかも分からない。
中小企業に必要なのは、厚い規程ではなく、社員の方が迷ったときに見て判断できる1枚の紙です。最初から完璧を目指さず、決める項目をしぼって作り、使いながら足していく方が、守られるルールになります。
この記事では、県内の会社が生成AIの何に悩んでいるかを見たうえで、最初に決める項目、1枚にまとめる手順と見本、見直しの時期を説明します。
県内の会社が悩んでいること
ルールを作る前に、ほかの会社が何に悩んでいるかを見ておくと、どこに力を入れるべきかが分かります。帝国データバンク水戸支店が茨城県内の企業に尋ねた調査(2026年3月)では、生成AI活用の懸念・課題(3つまでの複数回答)は次のとおりでした。
茨城県内企業の、生成AI活用の懸念・課題(上位5つ)| 懸念・課題 | 割合 | ルールで答えられること |
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| 生成AIを活用すべき業務の範囲 | 42.2% | 使ってよい仕事・使わない仕事を決める |
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| 専門人材・ノウハウ不足 | 40.8% | 聞ける人を決める、使い方を学ぶ場を作る |
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| 情報の正確性 | 40.8% | 人が確かめる所を決める |
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| トラブル時の責任所在などのルール整備 | 29.3% | 困ったときの連絡先と責任の持ち方を決める |
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| 情報漏洩のリスク | 29.3% | 入れてよい情報と、使うサービスを決める |
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表の右の列のとおり、5つの悩みのどれにも、社内ルールで答えられる部分があります。いちばん多い「活用すべき業務の範囲」は、禁止の決まりではなく「どこに使ってよいか」の決まりです。ルールは、使わせないためではなく、安心して使ってもらうために作るものだと分かります。
国の資料も「社内のルール」を求めている
総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.1版)」は、AIを使う事業者が気をつけることとして、サービスを提供する会社が定めた使い方の注意や規約を守ること、個人情報や機密情報を不適切に入力しないよう注意を払うこと、AIの出力の精度やリスクを理解して使うことなどを挙げています。
文化庁の「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」(2024年7月)も、AIを業務に使う人に向けて、著作権侵害を生じさせない使い方のための内部的なルールを作るなどの予防策を講じることが望まれる、としています。社内ルールは、こうした国の考え方を、自社の言葉に直す作業でもあります。
個人情報については、個人情報保護委員会が令和5年6月2日に「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」を出しています。個人情報を含む指示を入れるときは利用目的の範囲内かを十分に確かめること、本人の同意なく個人データを入れる場合はAIの会社がそれを機械学習に使わないことなどを十分に確かめること、が事業者への注意点として示されています。ルールの3番(入れてよい情報)は、この注意点を前提に決めます。
最初に決める項目
大企業の規程には何十もの条文がありますが、最初に決めるのは次の8項目で足ります。それぞれ、1〜3行で書ける程度に決めれば十分です。
生成AIの社内ルールで最初に決める8つの項目| 項目 | 決めること | 書き方の例 |
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| 1. 目的 | 何のためにAIを使うか | 「文書づくりや調べものの手間を減らし、お客さまと向き合う時間を増やすため」 |
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| 2. 使うサービスとアカウント | 使ってよいAIのサービス、だれの名義のアカウントを使うか | 「会社が用意したアカウントだけを使う。個人のアカウントで仕事の情報を扱わない」 |
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| 3. 入れてよい情報 | 入れてよい・条件つき・入れない情報の分け方 | 「お客さまの名前と連絡先は伏せてから入れる。マイナンバー・パスワードは入れない」 |
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| 4. 使う仕事・使わない仕事 | AIを使ってよい仕事と、使わない仕事 | 「社内文書の下書き・要約に使ってよい。採用の合否や人の評価には使わない」 |
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| 5. 確かめる所 | AIの答えを人が確かめる所 | 「社外に出す文は、金額・日付・約束ごとを人が確かめてから出す」 |
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| 6. 外に出すとき | AIで作った文や画像を社外に出すときの決まり | 「画像は、既存の作品に似ていないかを確かめてから使う」 |
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| 7. 困ったとき | うっかり入れた、間違いが外に出たときの連絡先と動き方 | 「すぐに○○さんへ連絡する。連絡した人は責めない」 |
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| 8. 見直し | いつ、だれがルールを見直すか | 「3か月後に一度、その後は半年ごとに総務が見直す」 |
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3番の「入れてよい情報」と5番の「確かめる所」は、中身が多いので、別の記事にくわしくまとめました。ルールの紙には要点だけを書き、細かい分け方は別紙にしておくと、1枚に収まります。
生成AIに入力してよい情報の決め方
生成AIの間違い対策|人が確かめる所の決め方
2番のアカウントは、会社の名義でそろえる
2番の「使うサービスとアカウント」は、地味に見えて大事な項目です。社員の方がそれぞれ個人のアカウントで使っていると、入れた内容の扱いの設定がばらばらになり、辞めた人のアカウントに仕事の記録が残ったままになります。
使ってよいサービスを1〜2つに決め、会社の名義でアカウントを用意します。だれにアカウントを渡したかの一覧を総務が持ち、入社と退社のときに足したり止めたりします。使いたい人に使える場所を用意しておくほうが、「個人のアカウントは使わない」という決まりも守られやすくなります。
「使わない仕事」は、理由と一緒に書く
4番の「使わない仕事」は、理由を一言添えると守られやすくなります。たとえば「人の評価や採用の合否には使わない。AIの判断には偏りが入ることがあり、本人に説明できないため」。理由が分かれば、社員の方は似た仕事に出会ったときに、自分で判断できます。
6番は、画像と文章で分けて考える
AIで作った画像やチラシの文を社外に出すときは、著作権の確かめがいります。文化庁のチェックリストでは、AIで作ったものを使う前に、既存の作品と似ていないかを確かめることが必要とされています。くわしい確かめ方は、別の記事で扱っています。
生成AIの著作権とビジネス利用
1枚にまとめる
8項目が決まったら、A4の紙1枚にまとめます。1枚に収めるのは、社員の方が「読んで覚えられる」量にするためです。長い規程は、作った人しか読みません。
- 8項目を見出しにして、それぞれ1〜3行で書く
- 禁止の言い方より、「こうする」という言い方で書く(「入れるな」より「伏せてから入れる」)
- 社内の書類や仕事の名前を、そのまま例に使う
- いちばん下に、迷ったときに聞く人の名前と、困ったときの連絡先を書く
- できた紙を、実際にAIを使う社員の方2〜3人に読んでもらい、分からない言葉を直す
- 社長の名前と日付を入れて、社内に配る
例:1枚の見本(一部)
例として、「当社の生成AIの使い方(2026年11月版)」という題で、次のように並べます。「目的:書類づくりの手間を減らし、お客さまと向き合う時間を増やす」「使うもの:会社のアカウントだけ」「入れない:マイナンバー・パスワード・取引先から秘密として受け取った資料」「伏せて入れる:お客さまの名前と連絡先」「確かめる:社外に出す文の金額・日付・約束ごと」「困ったら:総務の○○さんへすぐ連絡。責めません」。これだけでも、社員の方の迷いの多くに答えられます。
配るだけで終わらせない
紙を配っただけでは、読まれないまま机の引き出しに入ります。配るときに、部署の集まりで10分だけ時間をもらいます。
- 8項目を、読み上げずに要点だけ話す(3分)
- AIが作った社外向けの案内文を画面に出し、5番の確かめる所(金額・日付・約束ごと)に沿って見直す流れを見せる(4分)
- 「これは入れてよいか」と思う書類を、その場で1つずつ挙げてもらい、答える(3分)
最後の問いかけで出た質問は、そのまま見直しの材料になります。紙は、AIを使うパソコンの近くに貼っておくと、迷ったときにすぐ見られます。
責任の持ち方を書いておく
県内企業の悩みに「トラブル時の責任所在などのルール整備」がありました。AIで作ったものの責任をだれが持つかは、書いておかないと、問題が起きたときにもめます。
基本の考え方は、「AIで作ったものでも、外に出したら会社が出したもの。確かめて出した人と、その上司が責任を持つ」です。AIのせいにはできません。そのうえで、「うっかり入れた・間違えたときに、すぐ連絡した人は責めない」と書いておきます。責められると分かっていれば、人は黙ります。黙られるのが、会社にとっていちばん困ります。
下書きをAIに作らせてもよい
ルールの紙の下書きを、AIに作らせることもできます。8項目と自社の事情を箇条書きで渡し、「A4の紙1枚、です・ます調で」と頼めば、たたき台は短い時間でできます。ただし、AIが書いた文に、自社に合わない決まりや、国の資料にない話が混じることがあります。下書きはそのまま使わず、1行ずつ読んで、自社で本当に守れる決まりだけを残します。
見直しの時期
生成AIは、サービスの中身も、社内での使い方も、短い間に変わります。最初に作ったルールは、半年もすれば合わない所が出てきます。見直しの時期を、ルールの紙そのものに書いておきます。
見直しのきっかけと、確かめること| きっかけ | 確かめること |
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| 使い始めて3か月 | 聞く人に届いた質問、うっかり入れた・間違えた件を見て、足す決まりがないか |
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| その後、半年ごと | 使っているサービスの規約や設定が変わっていないか、使い方が広がっていないか |
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| 新しいサービスを使い始めるとき | 2番(使うサービス)と3番(入れてよい情報)を、そのサービスに合わせて確かめる |
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| AIを使う仕事が増えたとき | 4番(使う仕事)と5番(確かめる所)を足す |
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| 国の指針や資料が改訂されたとき | 自社のルールに足すこと、変えることがないか |
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国の指針も改訂が続いています。AI事業者ガイドラインも、第1.0版のあとに第1.1版が出ています。見直しのときには、総務省・経済産業省のページで、その時点の版を確かめます。
見直しは、聞く人に届いた質問から始める
見直しの材料として最も役に立つのは、迷ったときに聞く人へ届いた質問です。同じ質問が3回届いていれば、それはルールの紙に書くべきことです。聞く人は、届いた質問と答えを短く記録しておき、見直しの日にまとめて出します。
例:見直しで足した1行
例として、使い始めて3か月の見直しで、「会議の録音をAIで文字起こししてよいか」という質問が4回届いていたとします。そこで4番に「社内の会議の録音は文字起こしに使ってよい。社外の方が参加する会議は、先に相手の了解をとる」と1行足しました。紙の題の日付も「2027年2月版」に改め、何を足したかを下に1行添えて配り直します(例です)。
いばらきAIにご相談いただいたら
いばらきAIでは、AIを使い始める前に、AIに読ませる情報と読ませない情報を、お客さまと一緒に決めます。AX推進顧問では、月2回の定例で社内の仕事を知り、AIに任せる仕事と取り組む順番を決めます。そのとき、使う仕事・入れる情報・確かめる所といった決まりも、御社の決まりに合わせて一緒に整えます。
ルールができたあと、社員の方に使い方を身につけてほしい場合は、AI研修をご用意しています。AIの使い方を全6回で1つずつ身につける研修で、1〜5名・1回2時間・約2か月、オンラインで行います。演習の題材は、メールの返事や議事録など、ふだんの事務から選ぶので、ルールの決まりを守った使い方を、手を動かしながら覚えられます。
初回のご相談(無料・30分〜)はオンラインで行います。メールで、ルールづくりで迷っていることを一言お送りください。
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まとめ:8項目を1行ずつ書いてみる
- ルールは使わせないためではなく、安心して使ってもらうために作る
- 最初は8項目にしぼり、A4の紙1枚にまとめる
- 責任は「外に出したら会社が出したもの」、連絡した人は責めない
- 3か月後に一度、その後は半年ごとと、変化があったときに見直す
まずは、この記事の8項目の表を見ながら、自社ならどう書くかを1行ずつ書いてみてください。書けない項目が、社長や関係する部署と話し合うべき所です。