
去年、社員を外部のAIの講座に送った。受けた直後は「便利そうですね」と言っていたのに、3か月たって聞いてみると、仕事で使っている人はほとんどいない。今年も研修の予算を取るよう言われたけれど、同じことになるのではないか。研修を任された担当の方から、よく聞く悩みです。
研修の中身が悪かったとは限りません。研修で習ったことと、自分の毎日の仕事との間に距離があると、学んだことは仕事に移りません。選ぶときに、その距離を縮められる研修かどうかを見ることが大事です。
この記事では、研修のあと使われなくなる理由、研修の種類と向く会社、選ぶときに確かめる問い、ふだんの事務を題材に学ぶ流れ、研修のあとに社内に残すものを説明します。
研修のあと使われない理由
社員の教育や研修を求める声は大きく、中小企業基盤整備機構の調査(令和8年3月)でも、中小企業がAIやITの導入にあたって求める公的な支援として、「従業員向けの教育・研修」を「必要である」とした割合は67.7%でした。研修の必要は、多くの会社が感じています。問題は、受けたあとに使われるかどうかです。
研修のあとAIが使われなくなる理由は、たいてい次の5つのどれかです。研修を選ぶ前に、去年の研修がどれに当たったかを振り返っておくと、選ぶ基準がはっきりします。
研修のあと使われない理由と、選ぶときに見る所| 使われない理由 | よくある姿 | 選ぶときに見る所 |
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| 題材が自分の仕事と遠い | 講座の例は「旅行の計画を立てる」だった。自分の請求書の仕事にどう使うか分からない | 演習の題材が、ふだんの事務から選ばれるか |
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| 1回きり | 1日で多くのことを習い、翌週には忘れている | 回を分けて、間に自分で試す時間があるか |
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| 使う環境がない | 会社のアカウントがなく、何を入れてよいかも決まっていない | 研修の前に、使うサービスと社内の決まりを用意できるか |
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| 聞ける人がいない | 試してうまくいかなかったとき、相談する相手がいない | 研修の間や後に、質問できる場があるか |
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| 上の人が使っていない | 部長が使わないので、使っていると遊んでいるように見える | 管理職も一緒に受ける、または内容を知っているか |
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表の3つ目と5つ目は、研修の中身ではなく、会社の側で用意することです。どんなによい研修を選んでも、会社のアカウントがなく、入れてよい情報が決まっていなければ、社員の方は安心して使えません。研修の申し込みと同時に、使う環境を整えておきます。
生成AIの社内ルールの作り方
研修の種類と向く会社
AIの研修には、いくつかの形があります。どれがよい、悪いではなく、目的と会社の事情で選びます。
AI研修の主な形と、向く会社(目安)| 研修の形 | よいところ | 気をつける所 | 向く会社 |
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| 動画で学ぶ講座 | 好きな時間に、何人でも受けられる | 見て終わりになりやすい。質問しにくい | まず全員に基本を知ってほしい会社 |
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| 1日の集合講座 | 短い期間で、まとめて学べる | 量が多く、忘れやすい。題材が一般的になりやすい | AIが何かを、最初に知ってもらいたい会社 |
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| 県や支援機関などの公開講座 | 他社の人と一緒に学べる。参加しやすい | 題材は自社の仕事ではない。参加できる人数が限られる | 担当者1〜2人に先に学んでもらいたい会社 |
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| 少人数で回を重ねる研修 | 回の間に自分の仕事で試せる。質問しやすい | 期間がかかる。一度に受けられる人数は少ない | 実際の仕事で使える人を、数人ずつ育てたい会社 |
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| 社内の勉強会 | 自社の仕事の話ができる。気軽に始められる | 教える人がいないと続かない | すでに使いこなしている社員がいる会社 |
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1つに決める必要はありません。たとえば、まず動画で全員に基本を知ってもらい、そのうち実際に使う部署の数人に、回を重ねる研修を受けてもらう、という組み合わせもよくあります。研修のあとは、その数人が社内の勉強会で教える側に回ります。
社内の勉強会は、短く、決まった日に
社内の勉強会は始めやすい反面、教える人の負担が大きく、数回で止まりがちです。続けるには、1回30分、月に1回、決まった曜日、と小さく決めます。中身も「先月うまくいった使い方を1人1つ見せる」のように、準備のいらない形にします。
教える人を1人に固定しないことも大事です。毎回、違う人が1つずつ見せる形にすれば、教える側の負担が分かれ、見せる側に回った人の使い方も深まります。
選ぶときに確かめる問い
- 演習の題材は何か。メールの返事、議事録、日報のような、ふだんの事務から選ばれるか
- 何回に分かれているか。回の間に、自分の仕事で試す時間があるか
- 1回に何人で受けるか。一人ひとりが質問できる人数か
- 研修の間や後に、質問できる場はあるか
- 研修で使うAIのサービスは、会社で使うものと同じか。入れてよい情報の扱いに触れるか
- 研修が終わったときに、受けた人の手元に何が残るか(頼み方の見本、作ったものなど)
6つ目の問いが、見落とされやすいわりに大事です。研修の資料だけが残るのか、受けた人が自分の仕事で使った頼み方の見本が残るのかで、研修のあとに使われるかどうかが変わります。
ふだんの事務を題材に学ぶ流れ
研修で学んだことを仕事に移すいちばんの近道は、演習の題材を、受ける人がふだんしている事務から選ぶことです。メールの返事、会議の議事録、日報のまとめ、請求書の確かめといった、どの部署にもある仕事が題材になります。
題材が身近だと、研修の場で作ったものが、そのまま翌日の仕事で使えます。「旅行の計画」で頼み方を覚えた人は、自分の仕事に置きかえる一歩が要りますが、「取引先へのお詫びのメール」で覚えた人は、その一歩がいりません。
部署ごとの、演習の題材になりやすい事務(例)| 部署 | 題材になりやすい事務 |
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| 営業 | 問い合わせへの返事、見積書に添える文、訪問の記録のまとめ |
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| 総務 | 社内のお知らせ、会議の議事録、よくある質問への答え |
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| 経理 | 請求書と納品書の突き合わせ、取引先への確認のメール |
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| 現場・製造 | 日報のまとめ、作業の手順の書き起こし、引き継ぎのメモ |
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研修を選ぶときには、受ける人の部署を伝え、題材がこうした事務から選ばれるかを聞いておきます。研修の側で題材を選ぶ場合でも、自社の部署に近い題材があるかどうかで、持ち帰りやすさが変わります。
回を重ねる意味
AIの使い方は、一度にたくさん習うより、1つずつ身につけるほうが残ります。1回の研修で1つの使い方を学び、次の回までの間に自分の仕事で何度か試す。次の回では、試してうまくいかなかった所を持ち寄って直す。このくり返しで、研修の場の知識が、仕事の手順に変わっていきます。
例:回を重ねる研修の組み立て
例として、全6回の研修なら、1回目に頼み方の基本をメールの返事で、2回目に要約を議事録で、3回目に表の整理を日報で、4回目に数字の確かめを請求書で、5回目に文の書き分けをお知らせの文で学び、6回目に、それまでの回で作った頼み方を自分の仕事用にまとめる、といった並べ方があります。回ごとに題材が違うので、受ける人の部署が違っても、どこかの回が自分の仕事に重なります(組み立ては説明のための例です)。
回の間の「宿題」を小さくする
回の間に試す宿題は、小さいほど続きます。「次の回までに、自分のメールの返事を3通、AIで下書きしてみる」くらいで十分です。試した結果は、うまくいったものも、いかなかったものも、次の回に持ってきてもらいます。うまくいかなかった例ほど、学びが大きくなります。
宿題で扱う書類は、社内ルールで決めた「入れてよい情報」の範囲にします。お客さまの名前を伏せてから試す、という手順も、宿題の中でくり返すと身につきます。
管理職も、少なくとも中身を知っておく
表の5つ目の理由「上の人が使っていない」は、研修を受けた人が職場に戻ったときに効いてきます。部長や課長がAIを知らないと、部下がAIで下書きを作っていても、手を抜いているように見えてしまうことがあります。
管理職が全部の回を受けられなくても、最初の回だけ一緒に受ける、研修の内容を受けた人から10分で聞く、といった形で中身を知っておきます。上の人が「それ、どうやったの」と聞くだけで、受けた人が職場で使い続ける後押しになります。
研修のあとに残すもの
研修が終わったときに、社内に何が残っているかで、その後が決まります。受けた人の頭の中だけに残るのでは、その人が忙しくなったり、異動したりすると消えてしまいます。
帝国データバンク水戸支店の調査(2026年3月)では、生成AIを活用している茨城県内の企業41社のうち17.1%が、悪影響として「AIを使いこなせる社員と使いこなせない社員の間で、能力や成果の格差が拡大した」を挙げています。研修を受けた人だけが使えるようになり、ほかの人との差が開く、ということは起こりえます。研修のあとに残すものは、その差を縮める材料にもなります。
- 頼み方の見本集:研修で作った頼み方のうち、仕事で使えたものを、仕事の名前ごとに1枚にまとめる
- 社内ルールの紙:入れてよい情報、確かめる所、困ったときの連絡先
- 社内の相談役:研修を受けた人のうち1人に、ほかの社員の質問を受けてもらう
- 次に試す仕事の一覧:研修の中で「これも使えそう」と出た仕事を書き出しておく
なかでも頼み方の見本集は、研修を受けていない社員の方にとって、いちばん役に立ちます。見本をまねるところから始められるからです。見本集は、社内の共有の場所に置き、使ってみて直した人が書き足せるようにしておきます。
例:頼み方の見本集の1枚
例として、「取引先へのお詫びのメール」という題の1枚に、使う場面(納期が遅れるとき)、AIへの頼み方の文(伝えたいこと・守ってほしい条件・文の長さ)、出てきた下書きの例、人が確かめる所(日付・新しい納期・相手の名前)を並べます。いちばん下に、作った人と直した人の名前を書いておくと、分からないときにだれに聞けばよいかも分かります。
相談役の負担を軽くする
相談役になった人に質問が集まりすぎると、その人の本来の仕事が回らなくなります。質問はチャットの決まった場所に書いてもらい、相談役は1日1回まとめて答える、と決めておきます。同じ質問が何度か出たら、答えを見本集に足せば、次からは見本集で済みます。
研修を受けた人と受けていない人の差を、どう社内に広げていくかは、別の記事でくわしく扱っています。
生成AIを社内に浸透させる順番
いばらきAIにご相談いただいたら
いばらきAIのAI研修は、AIの使い方を全6回で1つずつ身につける研修です。1〜5名の少人数で、1回2時間・約2か月、オンラインで行います。演習の題材は、メールの返事や議事録など、ふだんの事務から選びます。
少人数なので、回ごとに一人ひとりの質問をうかがえます。1名から受けられ、顧問や開発を契約していなくても、研修だけをお申し込みいただけます。研修の中で、ほかの社員の方へ使い方を広げる進め方も一緒に考えます。大きな道具が必要になったときは、開発でお手伝いします。
初回のご相談(無料・30分〜)はオンラインで行います。メールで、受講する方の人数と、担当されている仕事を一言お送りください。研修の進め方をご説明します。
AI研修について見る
まとめ:選ぶ前に、去年の研修を振り返る
- 使われない理由は、題材が遠い・1回きり・使う環境がない・聞ける人がいない・上の人が使わない
- 研修の形は目的で選び、組み合わせてもよい
- 選ぶときは、題材・回数・人数・質問の場・残るものを確かめる
- 研修のあとは、頼み方の見本集・社内ルール・相談役を社内に残す
まずは、去年や前回の研修を受けた人に、「いま仕事でAIを使っているか、使っていないならなぜか」を聞いてみてください。返ってきた理由が、この記事の表のどれに当たるかを見れば、今年選ぶべき研修の形が見えてきます。