
営業のAさんは、見積書に添える文も、議事録のまとめも、AIで手早く仕上げている。隣の席のBさんは、同じ仕事をいまも一から手で書いている。Aさんに聞けばいいのに、なんとなく聞きにくい。社内でAIを使っているのは、気づけばAさんを含めた数人だけ。
生成AIは、使う人が自分で試しながら上達していく道具です。そのため、放っておくと、得意な人はどんどん使い、そうでない人は手をつけないまま、差が開いていきます。差が開いてから埋めるのは、開く前より手間がかかります。
この記事では、使う人と使わない人の差が開くと何が起きるかを見たうえで、使っている人のやり方を集め、仕事ごとの頼み方を共有し、最後は道具にして全員が同じ形で使う、という順番を説明します。
差が開くとどうなるか
使う人と使わない人の差は、多くの会社で起きています。帝国データバンク水戸支店の調査(2026年3月)では、生成AIを活用している茨城県内の企業41社のうち17.1%が、悪影響として「AIを使いこなせる社員と使いこなせない社員の間で、能力や成果の格差が拡大した」を挙げました。同じ調査で、この答えは大企業では28.6%と、全体より高くなっています。
中小企業基盤整備機構の調査(令和8年3月)でも、AIを導入した中小企業が挙げた導入後の運用課題として、「従業員による活用が進まない」が28.9%ありました。入れたけれど、一部の人しか使っていない。これは珍しい悩みではありません。
使う人と使わない人の差が開くと起きること| 起きること | 社内でのようす |
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| 仕事の偏り | AIで速く仕上げる人に、文書づくりの仕事が集まる。その人だけが忙しくなる |
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| 出来のばらつき | 同じお客さまへの文でも、書く人によって言い回しや詳しさがまちまちになる |
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| 隠れた使い方 | 使っている人が、個人のやり方で、決まりの外のサービスを使っている |
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| 使わない人の不安 | 「自分の仕事がなくなるのでは」「今さら聞けない」と感じ、ますます手が遠のく |
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3つ目の「隠れた使い方」は、情報の守りの面で見過ごせません。得意な人ほど、自分で見つけた便利なサービスを使い始めます。社内に共有の場がないと、何を、どこに入れているかが見えなくなります。差を縮める取り組みは、使い方を表に出す取り組みでもあります。
使わない理由は、反対だからとは限らない
つくば市は、筑波大学との共同研究を兼ねて職員向けの生成AIを導入しました。地方自治研究機構の令和5年度の先進事例によると、令和5年10月時点で全職員の3分の1程度が利用していた一方、庁内アンケートでは「使ったことがない」と答えた職員も相当数いて、使う人と使わない人で大きく二分していることがうかがえる、とされています。
同じ資料は、使ったことがない職員の中にも生成AIに期待している職員がいたこと、そして「使わない=ネガティブな印象」とは限らないと捉え、まずは知ってもらう・使ってもらう取り組みが必要としていることも紹介しています。身近な業務を例にした活用事例や、頼み方の研修を充実させる必要があるとも書かれています。会社でも同じです。使わない人の多くは、反対なのではなく、自分の仕事でどう使えばよいかが見えていないだけです。
「仕事がなくなる」不安には、先に答えておく
使わない人の中には、口には出さなくても「AIが広まったら、自分の仕事がなくなるのでは」と感じている人もいます。この不安を残したまま「使って」と言っても、手は伸びません。
広げ始める前に、社長から一言、何のためにAIを使うのかを伝えておきます。たとえば「書き写しやまとめの手間を減らして、お客さまと話す時間や、考える仕事に時間を回すため」。目的がはっきりすると、AIは自分の仕事を奪うものではなく、手間を引き受けてくれるものとして受け取られやすくなります。
使っている人のやり方を集める
差を縮める最初の一歩は、研修でも新しい道具でもなく、すでに使っている人のやり方を集めることです。社内には、自社の仕事に合った使い方を、もう見つけている人がいます。その人のやり方は、外の講座の例より、隣の席の人にとってずっと分かりやすい見本になります。
- だれが、どの仕事でAIを使っているかを聞く。名前を書かなくてよい簡単なアンケートにすると、隠れた使い方も出てきやすい
- 使っている人に15分ずつ時間をもらい、実際に使うところを横で見せてもらう
- 見せてもらいながら、「仕事の名前」「AIに頼む前にしていること」「頼み方の文」「出てきたものをどう確かめているか」の4つを書き取る
- 使っているサービスが、会社で決めたものかどうかを確かめる。決まりの外なら、決まりの中のサービスで同じことができるかを試す
- 集めたやり方を、仕事の名前ごとに並べる
3つ目の「AIに頼む前にしていること」が、意外に大事です。上手な人は、頼む前に資料をそろえたり、伝えたいことを箇条書きにしたりしています。頼み方の文だけを見てまねしても同じ出来にならないのは、この前の準備が抜けているからです。
例:見せてもらって分かったこと
例として、議事録をAIでまとめている総務の方に見せてもらったところ、AIに頼む前に、会議の録音の文字起こしに「決まったこと」「宿題」「次回」の3つの見出しを手で書き足していました。この一手間で、AIのまとめが格段に読みやすくなっていたのです。頼み方の文だけを共有していたら、この工夫は伝わりませんでした(説明のための例です)。
使っている人を「先生」にしすぎない
集める過程で、上手な人に「みんなに教えて」と頼みたくなります。ただ、その人に質問が集中すると、本来の仕事が回らなくなり、仕事の偏りがかえって強まります。上手な人にお願いするのは、やり方を見せてもらうところまで。整理して共有するのは、担当の方が受け持ちます。
仕事ごとの「頼み方」を共有する
集めたやり方は、ほかの人もまねできる形に直して共有します。ポイントは、AIの使い方として並べるのではなく、「仕事の名前」で引けるようにすることです。使わない人は「AIで何ができるか」ではなく、「自分のこの仕事が楽になるか」を知りたいからです。
頼み方を「穴埋め」にする
上手な人の頼み方の文を、そのまま共有しても、自分の仕事に置きかえるのが難しい人もいます。変わる所を空欄にして、穴埋めの形にします。
例:穴埋めの頼み方
例として、「次の会議の文字起こしを、『決まったこと/宿題(担当と期限)/次回』の3つの見出しで、それぞれ箇条書きにしてください。会議の名前は【 】、日付は【 】です。文字起こしにないことは書かないでください。」のように、変わる所だけを【 】にします。使う人は【 】を埋めて、文字起こしを貼るだけです。
頼み方の共有の形と、向くとき| 共有の形 | よいところ | 気をつける所 |
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| 共有フォルダに、仕事の名前ごとの1枚を置く | 仕事の名前で探せる。書き足しやすい | 置いただけでは見られない。場所を伝え続ける |
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| チャットの決まった場所に貼る | 気軽に出せる。質問もその場でできる | 流れて見つけにくくなる。月に一度、フォルダに移す |
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| 朝礼や部署の集まりで1つずつ見せる | 使うところを目で見られる | 一度に多くは伝えられない。1回1つにする |
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| 月に1回の短い勉強会 | 使っている人と使わない人が話せる | 教える人を固定しない |
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1つの形にこだわらず、「仕事の名前ごとの1枚を共有フォルダに置き、朝礼で週に1つ見せる」のように組み合わせます。研修のあとに残す見本集の作り方は、研修の選び方の記事でも扱いました。
社員向けAI研修の選び方
最初に共有するのは、だれもがする仕事
共有する仕事の順番は、使う人の多い仕事からにします。メールの返事、議事録、社内のお知らせのように、部署を問わずだれもがする仕事です。一部の部署だけの仕事は、そのあとにします。最初の1つで「自分の仕事も楽になった」と感じる人が増えると、次の共有が届きやすくなります。
使った人の声を、やり方を見せてくれた人に返す
共有した頼み方を使った人から「助かった」「ここを変えたらもっとよくなった」という声が出たら、やり方を見せてくれた人にも伝えます。自分の工夫が役に立ったと分かれば、次の工夫も見せてもらいやすくなります。直した所は、共有の1枚に書き足します。こうして、1枚が少しずつ社内のやり方として育っていきます。
穴埋めの頼み方を共有しても、使う人によって、貼る資料の量や確かめ方が違い、出来にばらつきが残ることがあります。毎日、だれもが同じ流れでする仕事なら、最後の段階として、道具にしてしまう方法があります。
ここでいう道具とは、決まった入力欄に書類や文を入れてボタンを押すと、裏で決まった頼み方がAIに渡り、決まった形の結果が出てくる、社内専用の小さなアプリのことです。使う人は頼み方を覚える必要がありません。
頼み方の共有と、道具にすることの違い| 見る所 | 頼み方の共有 | 道具にする |
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| 使う人が覚えること | 頼み方の文、貼る資料、確かめ方 | 入力欄に入れてボタンを押すこと |
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| 出来のばらつき | 使う人によって残る | 形がそろう |
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| 入れてよい情報の守り | 使う人が気をつける | 道具の側で、名前を伏せるなどができる |
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| 確かめる所 | 使う人が覚えておく | 画面に確かめる欄を出せる |
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| 始めるまでの手間 | 小さい | 作る手間がかかる |
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道具にする仕事の選び方
- 頼み方を共有した仕事のうち、使う人が多く、毎日か毎週ある仕事を選ぶ
- 使っている人どうしで、出来のばらつきが気になっているかを聞く
- 入れる情報に、お客さまの名前など気をつけたいものが含まれるかを見る
- 3つに当てはまるものから、道具にする候補にする
例:日報のまとめを道具にした場合
例として、現場の5人がそれぞれ穴埋めの頼み方で日報をまとめていたところ、人によって詳しさがまちまちで、社長が読みにくいという声がありました。そこで、日報の文を入れてボタンを押すと、「作業/困ったこと/明日の予定」の3つにそろった形で出てくる道具にします。使う人は頼み方を覚えなくてよく、出てきた結果の「困ったこと」を本人が確かめてから出すだけです(説明のための例です)。
道具にすると、使わなかった人も「ボタンを押すだけなら」と使い始めることがあります。最初に差を縮めるのは研修や共有ですが、最後に差をなくすのは、だれが使っても同じ結果になる道具です。
いばらきAIにご相談いただいたら
いばらきAIのAI研修は、AIの使い方を全6回で1つずつ身につける研修です。1〜5名・1回2時間・約2か月、オンラインで、演習の題材はメールの返事や議事録など、ふだんの事務から選びます。研修の中で、ほかの社員の方へ使い方を広げる進め方も一緒に考えます。
だれもが同じ形で使える道具にしたい仕事があれば、業務ツールの開発でお作りします。話を聞いたエンジニアがそのまま作り、試作を見ながら形を決めます。アカウントは御社の名義で作り、説明のスライドと説明の動画もお渡しするので、新しく入った方にも使い方を伝えられます。
初回のご相談(無料・30分〜)はオンラインで行います。メールで、社内でAIを使っている人の様子や、広げたい仕事を一言お送りください。
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まとめ:まず、使っている人に15分見せてもらう
- 差が開くと、仕事の偏り・出来のばらつき・隠れた使い方が起きる
- 使わない人の多くは反対ではなく、自分の仕事での使い方が見えていないだけ
- 使っている人のやり方を、前の準備まで含めて集め、穴埋めの頼み方にして共有する
- 毎日だれもがする仕事は、道具にして全員が同じ形で使えるようにする
まずは、社内でAIを使っている人を1人見つけ、15分だけ、実際に使うところを横で見せてもらってください。その15分で書き取った4つのこと(仕事の名前・前の準備・頼み方・確かめ方)が、社内に広げる最初の1枚になります。