
社員がAIで作った取引先への案内文に、ありもしない「割引の条件」が書いてあった。送る前に気づいたからよかったものの、もし出ていたらと思うと、社長としてはAIを使わせるのが怖くなります。
生成AIは間違えます。これは使い方が悪いからではなく、仕組みからくる性質です。だからといって使わないのではなく、「どこを人が確かめるか」を先に決めておけば、間違いが外に出るのを防ぎながら、手間の減る所は減らせます。
この記事では、AIが間違えやすいのはどんな場面か、仕事ごとに人が確かめる所の決め方、答えの出どころを示させる頼み方、数字を合計で確かめる手順を説明します。
AIが間違えるのはどんなときか
生成AIは、たくさんの文章から「次に来そうな言葉」を予測して文を作ります。事実を調べて答えているのではありません。そのため、もっともらしいけれど事実と違う文を作ることがあります。これを「ハルシネーション(AIの作り話)」と呼びます。
帝国データバンク水戸支店の調査(2026年3月)でも、茨城県内の企業が挙げた生成AI活用の懸念・課題で、「情報の正確性」は40.8%と、上位に入っています。間違いの心配は、多くの会社に共通です。
AIが間違えやすい場面と、その例| 間違いの種類 | 起きやすい場面 | 例 |
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| もっともらしい作り話 | 知らないことを聞かれたとき、元の資料に書いていないことを補うとき | ない割引の条件、存在しない法律の名前、実在しない取引先の名前 |
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| 古い情報 | 最近変わった決まりや値段を聞いたとき | 去年までの様式、改定前の料金 |
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| 数え間違い・計算違い | 長い表の合計、件数を数えるとき | 合計が1行分ずれる、件数が1つ足りない |
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| 読み取り違い | 手書きの書類、かすれた印刷、写真から文字を読むとき | 「1」と「7」、「0」と「6」の取り違え |
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| 頼みごとの取り違え | 頼み方があいまいなとき | 「短く」と頼んで大事な条件まで消える |
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| 社内の事情を知らない | 社内だけの決まりや言葉が関わるとき | 社内の略語を別の意味に取る |
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頼み方で減らせる間違いもある
表のうち、「頼みごとの取り違え」と「社内の事情を知らない」は、頼み方でかなり減らせます。AIは、言われていないことは知りません。人に頼むとき以上に、条件を全部書いて渡します。
- 守ってほしい条件を箇条書きで渡す:「値段と日付は変えない」「割引の話は書かない」
- 社内の言葉の意味を添える:「『本社便』は、毎週火曜の本社行きの定期便のこと」
- 長い仕事は分けて頼む:要約と清書を一度に頼まず、まず要約、確かめてから清書
- お手本を1つ見せる:前に人が書いた、よくできた文を1つ添えて「この形で」と頼む
ただし、頼み方をどれだけ工夫しても、作り話や読み取り違いはなくなりません。頼み方は間違いを減らす手、確かめる所は間違いを外に出さない手、と分けて考えます。
間違いは、目立たない形で出てくる
厄介なのは、AIの間違いが、自信のある自然な文で出てくることです。人が書いた文なら、迷った所は言いよどんだり、「たぶん」と書いたりします。AIは、正しい所も間違った所も、同じ調子で書きます。読む側が「ここは怪しい」と気づく手がかりが少ないのです。
同じ調査で、生成AIを活用している県内企業41社のうち、「出力結果の誤りにより社内外でトラブルや損害が発生した」と答えたのは2.4%でした。大きな事故は多くありません。ただ、これは各社が何らかの形で確かめているからとも読めます。確かめる所を決めておくことが、事故を少なく保つ前提です。
確かめる所を決める
AIが作ったものを全部、一字一句確かめていたら、AIを使う意味が薄れます。確かめる所は、「間違えたときの影響が大きい所」に絞ります。影響の大きさは、だれに届くか、取り消せるかで決まります。
仕事ごとの、人が確かめる所の目安(例)| AIに頼む仕事 | 間違えたときの影響 | 人が確かめる所 |
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| 社内の議事録の要約 | 小さい(社内だけ、直せる) | 決まったこと・期限・担当者の名前だけ |
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| お客さまへのメールの下書き | 中くらい(社外に届く) | 金額・日付・約束ごと・相手の名前 |
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| 請求書や見積書の数字 | 大きい(お金が動く) | 全部の数字。合計との照らし合わせ |
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| 取引先への案内文・チラシ | 大きい(多くの人に届く、取り消せない) | 条件・値段・日付・法律や制度の話 |
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| 社内のアイデア出し | 小さい(採用するかは人が決める) | 確かめは不要。使うと決めたものだけ確かめる |
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確かめる所の決め方
- AIに頼む仕事を1つ選び、AIが出すもの(文・表・数字)を書き出す
- 出すものが、だれに届くか(社内・お客さま・多くの人)を書く
- 間違えたときに取り消せるか、お金や約束に関わるかを書く
- 影響が大きい所に印を付け、そこを人が確かめる所にする
- 確かめる所ごとに、何と見比べるか(元の書類・料金表・カレンダーなど)と、だれが見るかを決める
冒頭の案内文の例なら、「条件・値段・日付」が確かめる所です。見比べる相手は、自社の正式な料金表です。AIが書いた条件のうち、料金表に無いものがあれば消す、と決めておけば、ない割引が外に出るおそれは小さくできます。
例:お客さまへのメールの確かめる所
例として、問い合わせへの返事の下書きをAIに作らせる仕事なら、確かめる所を「金額・日付・約束ごと・相手の名前」の4つに決め、メールを送る画面の横に貼っておきます。送る前に4つだけ元の問い合わせと料金表に照らして見る。言い回しや段落の順番は、読んで違和感がなければそのまま使います。
見つけた間違いは、記録して頼み方を直す
確かめる所で間違いを見つけたら、直して終わりにせず、何を間違えたかを1行記録します。「値段を去年のものにしていた」「数量の単位を取り違えた」。記録が10件ほどたまると、間違いの癖が見えてきます。
癖が分かれば、頼み方に条件を足したり、確かめる所を入れ替えたりできます。間違いの記録は、AIの使い方を育てるいちばんの材料です。
確かめる人と作る人を分ける
影響の大きい所は、AIに頼んだ本人とは別の人が確かめるのが理想です。自分で頼んだ文は、頼んだ内容が頭にあるので、間違いを読み飛ばしやすくなります。人が足りなくて分けられないなら、時間をおいて読み直す、声に出して読む、だけでも見落としが減ります。
出典を示させる
確かめる時間を短くするいちばんの方法は、AIに「その答えは、どこに書いてあったか」を示させることです。出どころが分かれば、確かめる人はそこだけを見ればよくなります。
つくば市は、筑波大学との共同研究を兼ねて、自治体のチャットツールと連携させた生成AIを導入しました。その特徴の1つとして、生成AIによる回答の出典情報が示される点が挙げられています(地方自治研究機構の令和5年度の先進事例)。答えだけでなく出どころを示す形は、会社の仕事でも使えます。
出どころを示させる頼み方
- 渡した資料だけを使って答えるように頼む:「次の資料に書いてあることだけを使って答えてください」
- 出どころを添えさせる:「答えのそれぞれに、資料のどの文から取ったかを、その文をそのまま引いて示してください」
- 分からないときの答え方を決める:「資料に書いていないことは、『資料に記載なし』と答えてください」
3つ目が特に大事です。AIは、分からないと言うより、もっともらしく答えようとする傾向があります。「分からないときはこう答えて」と決めておくと、作り話が減ります。
出どころも、本当にあるかを確かめる
AIが示した「出どころの文」そのものが、資料にない作り話のこともあります。示された文を資料の中で検索して、本当にあるかを確かめます。検索して見つからなければ、その答えは使いません。
インターネットを調べるAIでも、出どころを開いて見る
インターネットを調べて答えるAIは、答えと一緒に参考にしたページを示すことが多く、便利です。ただ、示されたページを開くと、答えと違うことが書いてある、日付がずっと古い、個人のブログだった、ということもあります。
法律や制度、役所の手続き、値段のように、変わりやすく間違えると困る話は、示されたページではなく、国や役所、取引先の公式のページを自分で開いて確かめます。AIの答えは、どこを確かめればよいかを知るための手がかりとして使います。
社内の資料から答えさせる形にする
よく聞かれる質問に答えさせたいなら、AIが自分の知識で答えるのではなく、社内の規程や手順書から答える形にすると、間違いが減ります。答えの横に、どの規程のどの条からかを出す道具にしておけば、確かめる人は規程を開いて見比べるだけで済みます。
例:数字は合計で確かめる
数字の間違いは、文の間違いより影響が大きく、しかも読んだだけでは気づきにくいものです。数字は「読んで確かめる」のではなく、「合計と照らし合わせて確かめる」形にします。
例:手書きの納品書の読み取り
例として、取引先から届く手書きの納品書を写真に撮り、AIで品名・数量・金額を表に起こすとします。1枚に10行ほどあり、いちばん下に手書きの合計が書いてあります(数字は説明のための例です)。
- AIに、各行の品名・数量・金額と、納品書の下に書いてある合計を、別々に読み取らせる
- 表計算で、AIが読み取った各行の金額を足す
- 足した結果と、AIが読み取った「書いてある合計」を比べる
- 一致すれば、その納品書は次へ進める
- 一致しなければ、その納品書だけ、人が元の写真と1行ずつ見比べる
この形なら、人が見るのは合計が合わなかった納品書だけです。全部を見比べるより、確かめる手間がずっと少なくなります。各行の足し算は表計算にさせ、AIには計算させないのがこつです。計算は表計算のほうが確かです。
照らし合わせに使える数字の例| 書類 | 照らし合わせる数字 |
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| 納品書・請求書 | 各行の金額の合計と、書いてある合計 |
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| 日報 | 作業時間の合計と、出勤から退勤までの時間 |
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| 在庫の記録 | 前の在庫+入った数-出た数と、数えた今の在庫 |
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| 注文の一覧 | 読み取った件数と、受け取ったメールや紙の枚数 |
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合計が合っても、2つの行で読み違いが打ち消し合っている、ということもありえます。お金に関わる書類は、合計の照らし合わせに加えて、月に何枚かを人が抜き取りで見比べると、より安心です。
抜き取りで見る枚数は、最初は多めにし、間違いが見つからない月が続いたら減らしていきます。反対に、読み取り違いが続くようなら、写真の撮り方(明るさ、真上から撮る)を見直すと、AIの読み取りがよくなることがあります。間違いの原因が、AIではなく元の写真にあることも少なくありません。
いばらきAIにご相談いただいたら
いばらきAIでは、AIが間違えることを前提に、数字や判断に関わるところは、人が確かめる手順を残した形で道具を作ります。たとえば、AIが読み取った金額は元の書類と見比べる、送る前の文は担当の方が目を通す、といった形です。どこまでAIに任せるかは、試作を見ながら一緒に決めます。
AX推進顧問では、月2回の定例で社内の仕事を知り、AIに任せる仕事と取り組む順番を決めます。初回の定例でAIを使える仕事の一覧と順番をお渡しし、データがあれば、その場で試作もお見せします。試作で実際の書類を使ってみると、どこで間違えやすいかが具体的に見え、確かめる所を決めやすくなります。
初回のご相談(無料・30分〜)はオンラインで行います。メールで、AIの間違いが心配な仕事を一言お送りください。
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まとめ:AIに頼む仕事ごとに、確かめる所を1行で書く
- AIは作り話・古い情報・数え間違い・読み取り違いで間違える
- 確かめる所は、間違えたときの影響が大きい所に絞る
- 渡した資料だけで答えさせ、出どころを示させ、分からないときの答え方を決める
- 数字は合計や件数と照らし合わせ、合わないものだけを人が見る
まずは、AIに頼みたい仕事を1つ選び、「この仕事で人が確かめるのは、○○と○○」と1行で書いてみてください。その1行が書ければ、AIの間違いが外に出る心配は、ぐっと小さくなります。確かめる所は、AIに入れる情報の決まりとあわせて、社内ルールの1項目にしておくと続きます。
生成AIの社内ルールの作り方