
日中は畑やハウス、加工場で手を動かし、夕方から事務所で出荷の伝票と作業の記録をまとめる。農業法人や食品加工の会社では、事務が一日の終わりに後回しになりがちです。
DXという言葉を聞くと、センサーやドローン、自動で動く機械を思い浮かべるかもしれません。DXは、デジタルの道具を使って仕事の進め方そのものを変えることを指します。大きな機械の前に、毎日の出荷と記録の事務を変えるのも、立派なDXです。
この記事では、茨城の農業と食品の数字を確かめたうえで、出荷・資材・記録の事務のどこにAIが使えるか、人に残す所はどこか、出荷の記録を品目ごとに集計する手順を紹介します。
数字で見る茨城の農業と食品
県の「茨城の豆知識」(令和8年6月現在版)によると、茨城県の農業産出額は令和6年で全国第3位です。令和5年に全国第1位だった品目には、かんしょ、はくさい、ピーマン、メロン、ほしいも、れんこんなどが並びます。
東京都中央卸売市場で扱われる青果物のうち、茨城県産のシェアは22年連続で第1位です。首都圏の食卓を支える産地として、毎日大量の出荷が行われています。
食べ物を加工する会社も多くあります。茨城県統計課の「2024年経済構造実態調査(製造業事業所調査)」では、従業者4人以上の製造業の事業所のうち、食料品は596事業所で12.3%を占め、金属製品に次いで2番目に多い業種でした。
茨城の農業と食品に関する数字| 項目 | 数字 | 出典 |
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| 農業産出額 | 全国第3位(令和6年) | 茨城の豆知識 |
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| 東京都中央卸売市場の県産青果物のシェア | 22年連続 第1位 | 茨城の豆知識 |
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| 食料品の製造の事業所(従業者4人以上) | 596事業所(12.3%) | 2024年経済構造実態調査 |
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茨城の農業は、品目の多さも特徴です。全国第1位の品目が野菜から果物、加工品まで幅広く並ぶように、1つの法人で何種類もの作物を作り、季節ごとに出荷する品目が入れ替わるところも珍しくありません。品目が多いほど、規格や出荷先の組み合わせが増え、伝票と集計の手間もふくらみます。
出荷が多いということは、出荷にまつわる事務も多いということです。品目、規格、数量、出荷先、日付。これらを毎日、伝票と記録に書き、月ごとにまとめる仕事が、どの農業法人や食品会社にもあります。
出荷・資材・記録の事務
農業法人や食品加工の会社で、畑や工場の外にある事務を並べると、次のようになります。
農業法人・食品会社の事務と、いまの手作業の例| 事務 | いまの手作業の例 | 困りごとの例 |
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| 出荷 | 手書きの出荷伝票を、夜にExcelの出荷表へ写す | 品目ごとの量が分かるのが月末になる |
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| 取引先への連絡 | 出荷の量や規格の変更を、電話とメールで個別に伝える | 伝えた内容の記録が残らない |
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| 資材の発注 | 段ボールや袋、肥料の残りを見て、担当が思い出して頼む | 切らしてから気づく |
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| 作業の記録 | 圃場(畑)ごとの作業や、使った農薬を紙の日誌に書く | あとから探すのに時間がかかる |
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| 衛生・温度の記録 | 加工場の温度や清掃の記録を、手書きの表につける | 記録はあるが、見返されない |
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どの仕事も、書くこと自体は短い時間で済みます。手間になるのは、書いたものを別の表に写す、月ごとに集める、問い合わせがあったときに探す、という後の作業です。この「後の作業」が、AIに任せやすい部分です。
季節による波も、農業と食品の事務の特徴です。収穫の盛りには出荷伝票が何倍にも増え、事務を担う人も畑や加工場に出ています。忙しい時期ほど事務が後回しになり、閑散期にまとめて片付ける、という形になりやすいのです。
AIで変わるところ、人が残すところ
AIは、紙の伝票や記録の写真から文字と数字を読み取り、表にまとめることができます。決まった形の文章の下書きも作れます。一方で、作物や商品を見て決めること、取引先との話し合いは、人の仕事です。
出荷と記録の事務で、AIに任せる所と人に残す所| 仕事 | AIに任せる所 | 人に残す所 |
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| 出荷の記録 | 伝票の写真から品目・規格・数量を読み取り、出荷表に足す | 読み取った数量が伝票と合っているかを確かめる |
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| 品目ごとの集計 | 日ごと・週ごと・出荷先ごとの合計を作る | 合計が出荷表と合っているかを見る。数字の意味を読む |
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| 取引先への連絡 | 変更の連絡文の下書きを作る | 内容を確かめて送る。値決めの話をする |
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| 作業・衛生の記録 | 手書きの記録を一覧にし、いつもと違う値に印を付ける | 印の付いた値の理由を確かめ、対応を決める |
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| 作物・商品の見極め | (任せない) | 出来や品質を見て、規格や出荷先を決める |
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取引先への連絡の下書きも、出荷の多い会社では効きます。天候で出荷の量が減る、規格の割合が変わる、といった知らせは、相手ごとに言い回しを変えて何通も送ることになります。伝えたい中身を箇条書きで渡せば、AIが相手ごとの文面の下書きを作ります。送る前に担当の方が読み、数字と言い回しを確かめてから送ります。送った文面が残るので、あとで「いつ何を伝えたか」を探すのも楽になります。
AIは読み違いや計算の間違いをすることがあります。特に手書きの数字は、くずし方によって読み違いが起きます。農薬の使用記録や衛生の記録のように、取引先や役所に出すことがある記録は、人が元の紙と見比べる段階を外さないようにします。
もう1つ気をつけたいのは、記録の書き方を変えないことです。畑や加工場で手袋をしたまま書く紙の日誌を、いきなりスマホ入力に変えると、記録そのものが止まりかねません。紙はそのままにして、撮って入れる所から始めます。
資材の切らしを防ぐ使い方
出荷表がデータになると、資材の発注にも使えます。たとえば、品目ごとの出荷の数から、使った段ボールや袋の数はおおよそ計算できます。棚卸しの数と合わせて、「この量を下回ったら発注する」という線を決めておけば、AIがその線に近づいた資材を一覧にして知らせる形が作れます。
ここでも、発注するかどうかを決めるのは人です。AIの役目は、思い出す手間を減らし、見落としに気づかせることにとどめます。取引先の都合や季節の変わり目のように、数字に表れない事情は担当の人が判断します。
例:出荷の記録を品目ごとに集計する
例:社員30人の野菜の農業法人
ピーマンとかんしょを中心に、市場と県内外の量販店へ出荷しています。出荷は手書きの伝票で、事務の担当が週に2回、まとめてExcelに打ち込みます。社長は「品目ごと・出荷先ごとに、先週どれだけ出たかを月曜の朝に知りたい」と考えていますが、打ち込みが追いつかず、分かるのはいつも月末です(会社の規模や中身は説明のための例です)。
この法人で、出荷の記録を週ごとの集計にするまでの手順は次のとおりです。
- 閑散期のうちに、去年の出荷伝票をまとめて撮り、品目・規格・出荷先の書き方がどれくらいばらつくかを見る
- ばらつきを見ながら、品目と出荷先の呼び方をそろえた一覧を作る(「ピーマン」「P」「ぴーまん」を1つにまとめる、など)
- 去年の伝票で読み取りを試し、規格の欄など、間違えやすい所を先に確かめておく
- 収穫が始まったら、出荷のたびに担当が伝票を撮り、決めた置き場所に入れるだけにする
- AIが読み取った行のうち、自信のないものと、ふだんより大きく多い・少ない数量に印を付け、事務の担当が伝票と見比べる
- 日曜の夜に、品目ごと・出荷先ごとの先週の合計を1枚の表にまとめ、社長が月曜の朝に見る
2つ目の「呼び方をそろえる」は、見落とされがちですが大事な準備です。伝票を書く人によって、同じ品目や出荷先の書き方がばらばらだと、集計の段階で別のものとして数えられてしまいます。最初に一覧を作っておくと、AIが読み取った後でも同じ名前にそろえられます。
この例では、週に2回の打ち込みの作業が、印の付いた行を確かめるだけになる見込みです。社長は月曜の朝に先週の数字を見られるようになり、出荷先との話し合いに、記憶ではなく数字を持って臨めます。
例の法人で出荷の記録がどう変わるか(見込みを含む) | 見直す前 | 見直した後 |
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| 伝票の書き方 | 手書き | 手書きのまま(撮って入れるだけ) |
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| 出荷表への入力 | 週2回、事務の担当がまとめて打ち込む | AIが写真から読み取って足す |
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| 人がすること | 全部の伝票を読んで打つ | 印の付いた行だけ伝票と見比べる |
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| 品目ごと・出荷先ごとの数字 | 月末に分かる | 毎週月曜の朝に分かる |
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出荷の集計が回り始めたら、同じ写真の置き場所に、作業の日誌や加工場の温度の記録も入れていく形に広げられます。最初から全部の記録を対象にせず、1つの記録で読み取りの癖や確かめ方をつかんでから広げるほうが、現場の負担が少なく済みます。
いばらきAIにご相談いただいたら
撮りためた出荷伝票を何枚か、メールに添えてお送りください。初回のご相談(無料・オンライン・30分〜)では、品目や出荷先の書き方のばらつきを見ながら、そろえる一覧の作り方をご説明します。
収穫の盛りに入る前の閑散期に、過去の伝票で読み取りを試し、品目の一覧づくりまで済ませておく段取りがおすすめです。試作は、話をうかがったエンジニア(代表)が作り、事務の担当の方に触っていただいて直します。道具を動かすアカウントは御社の名義で作るので、出荷表のデータは御社の手元に残ります。
品目が入れ替わる季節ごとの直しは、保守の小さな直しとしてお受けします。
業務ツールの開発について見る
農業・食品のAI活用について見る
茨城県の会社のAI導入について見る
まとめ:出荷伝票を1週間分、写真に撮っておく
- 茨城は農業産出額が全国第3位、食料品の製造の事業所も多く、出荷と記録の事務が多い
- 書くことより、写す・集める・探す後の作業がAIに任せやすい
- 紙の書き方は変えず、品目や出荷先の呼び方をそろえてから始める
まずは、出荷伝票か作業の記録を1週間分、スマホで写真に撮っておいてください。何枚あるか、書き方がどれくらいばらばらかが分かるだけでも、AIに任せられる量の見当がつきます。
撮るときは、伝票の四隅が入るように真上から撮り、影や手が数字にかからないようにします。暗い倉庫で撮る場合は、明るい机の上に置き直すだけでも読み取りの結果が変わります。伝票が重なったまま撮らず、1枚ずつ撮るのも大事な点です。こうした撮り方の決まりも、最初の1週間で現場の人と一緒に決めておくと、あとで読み違いを直す手間が減ります。