
工場の中は機械が新しくなっても、事務所の机には手書きの検査記録と、Excelの受注表と、ホワイトボードの写真が並んでいる。茨城の中小の工場では、そんな光景が珍しくありません。
製造業でAIというと、画像で不良品を見つける、機械の故障を前もって知らせる、といった大がかりな話が目立ちます。けれど、従業員が数十人から百人ほどの工場で最初に効くのは、現場の外にある事務のほうです。
この記事では、茨城のものづくりの数字を確かめたうえで、工場の事務のどこに手作業がたまっているか、AIに任せやすい3つの使い方、手書きの検査記録を週報にする手順を、順に紹介します。
数字で見る茨城のものづくり
茨城県統計課がまとめた「2024年経済構造実態調査(製造業事業所調査)」の結果を見ると、茨城がものづくりの県であることがよく分かります。
茨城県の製造業(従業者1人以上の事業所。2024年経済構造実態調査)| 項目 | 茨城県の数字 | 全国での順位 |
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| 事業所数 | 5,689事業所 | 第16位 |
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| 従業者数 | 275,558人 | 第7位 |
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| 製造品出荷額等 | — | 第8位 |
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工場の立地も多く、県の「茨城の豆知識」によると、工場立地面積は平成28年から令和7年の10年間の累計で1,201ヘクタール、全国第1位です。新しい工場が建ち続けている県だと言えます。
中規模の工場が3割
同じ調査で、従業者4人以上の事業所を規模で分けると、4〜29人の小規模の事業所が3,211(66.5%)、30〜299人の中規模の事業所が1,472(30.5%)、300人以上の大規模の事業所が146(3.0%)でした。業種では、金属製品が683事業所(14.1%)、食料品が596事業所(12.3%)、プラスチック製品が477事業所(9.9%)と多くなっています。
30〜299人の工場は、専任の情報システムの担当を置くほどではないけれど、事務の量は人手で回すには多い、という規模です。受注、生産の指示、日報、検査の記録、出荷の書類。それぞれを別の人が別の形で書き、事務所で集めて写し直す仕事が生まれやすいところです。
工場の事務にたまる手作業
中小企業基盤整備機構の全国調査(令和8年3月)では、AIの導入分野は総務・管理部門が68.3%、営業・販売・サービス・アフターサービス部門が60.3%と多い一方、製造・生産部門は導入が遅れている傾向が示されています。県内でも、帝国データバンク水戸支店の調査(2026年3月)で、生成AIを業務で使っている製造業の企業は23.8%と、全体の27.9%を下回りました。
製造の現場そのものは、安全や品質の決まりが多く、AIを入れるのに時間がかかります。けれど、現場と事務所の間でやり取りされる書類なら、話は別です。工場でよく見かける手作業を並べると、次のようになります。
中小の工場でたまりやすい事務の手作業| 書類 | いまの手作業の例 | 困りごとの例 |
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| 注文書 | 取引先ごとに形の違う注文書を見て、受注表に打ち込む | 打ち間違い、取引先が増えるたびに覚えることが増える |
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| 作業日報 | 紙の日報を週末に集め、作業時間を品目ごとに足す | 集計が遅れ、原価が分かるのが月末になる |
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| 検査記録 | 手書きの記録表を保管し、問い合わせのたびに探す | 傾向を見る人がいない。探すのに時間がかかる |
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| 作業手順 | ベテランの頭の中にあり、新人は横について覚える | 教える人の手が止まる。辞めると段取りが消える |
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| 出荷の書類 | 受注表を見ながら、納品書と送り状を作る | 同じ内容を何度も書く |
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どれも、元になる書類があり、出来上がりの形が決まっている仕事です。人が確かめる所を残せば、AIに下ごしらえを任せやすい種類の仕事だと言えます。
工場の事務で見落とされがちなのは、1つひとつは短い作業だという点です。注文書1枚の打ち込みは数分、日報1枚の集計も数分。けれど、取引先が30社、作業者が50人いれば、毎日・毎週積み重なって、事務の担当の時間の大半を占めます。自社でどれくらいかかっているかは、書類の枚数と1枚にかかる時間を掛けてみると、おおよそつかめます。
AIに任せやすい3つの使い方
1. 読み取り:紙や画像の書類を、表のデータにする
AIは、注文書や記録表の写真から、文字や数字を読み取れます。取引先ごとに形が違っても、「品番」「数量」「納期」のように抜き出す項目を決めておけば、同じ形の一覧にそろえられます。手書きの数字は読み違いが起きるので、読み取った値は人が元の紙と見比べます。
2. 集計:ばらばらの表を、いつもの形にまとめる
日報や検査記録から、品目ごと・ラインごと・週ごとの合計を作る作業です。いつも使っている集計表の形をAIに見本として渡すと、同じ形で出せます。合計が元の記録と合っているかは、人が確かめる段階を残します。
3. 手順書:話した段取りを、読める手順にする
ベテランに段取り替えや検査のやり方を口で説明してもらい、その話をAIで手順書の形に整えます。写真を添えれば、新人が見ながら作業できる資料になります。手順書の中身が正しいかは、話した本人に読んでもらって確かめます。
ベテランのコツを手順書に残す方法を読む
3つとも、新しい機械や大きなシステムを入れる話ではありません。いま事務所にある書類を材料に、手で写したり足したりしている部分をAIに任せる使い方です。
3つのうち、どれから始めるか
- 取引先が多く、受注の打ち込みに毎日時間を取られている → 読み取りから
- 日報や記録はデータになっているのに、まとめる人がいない → 集計から
- ベテランの退職が数年以内に控えている → 手順書から
迷ったときは、「間違えたときの影響が小さいもの」を先にします。受注の読み取りは、打ち間違いがそのまま出荷の間違いにつながるので、人が確かめる段階をしっかり作ってからにします。検査記録の週報は、傾向を見るための資料なので、多少の読み違いがあっても大きな問題になりにくく、最初の1つに向いています。
例:手書きの検査記録を週報にする
例:社員80人の金属加工の工場
3つのラインで、毎日、検査の担当が寸法の測定値を手書きの記録表に書いています。記録表は月ごとにファイルに綴じて保管するだけで、ずれが出始めていないかを見る人はいません。品質の担当は「週に一度は傾向を見たいが、記録をExcelに打ち直す時間がない」と言っています(会社の規模や中身は説明のための例です)。
この工場で、記録表を週報にするまでの手順は次のとおりです。
- 記録表の欄を確かめ、読み取る項目を決める(日付・ライン・品番・測定値・判定・記入者)
- 毎日の終わりに、検査の担当がスマホで記録表を撮り、決めた置き場所に入れる
- AIで写真から項目を読み取り、1日分ずつ一覧の表に足していく
- 読み取った測定値のうち、規格の上限・下限に近いものや、読み取りに自信のないものに印を付ける
- 品質の担当が、印の付いた行だけを元の記録表と見比べて直す
- 週の終わりに、ラインごと・品番ごとの測定値の動きを、AIで1枚の週報にまとめる
大事なのは、記録表の書き方を変えないところから始めることです。いきなりタブレットで入力する形に変えると、現場の手間が増え、使われなくなりがちです。紙はそのまま、撮って入れるだけにすれば、検査の担当の仕事はほとんど変わりません。
読み取りに慣れてきたら、記録表の欄の並びを少し整えると、読み違いが減ります。たとえば、数字の欄に小さな枠を付ける、記入者の欄を印にする、といった直しです。直すかどうかは、現場の声を聞いてから決めます。記録表を作り直すのは、読み取りの結果を何週か見て、間違いの多い欄が分かってからでも遅くありません。
例の工場の検査記録、見直す前と後 | 見直す前 | 見直した後 |
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| 記録の書き方 | 手書きの記録表 | 手書きの記録表のまま(撮って入れるだけ) |
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| データにする作業 | 時間がなく、していない | AIが読み取り、人は印の付いた行だけ確かめる |
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| 傾向を見る | 誰も見ていない | 毎週、1枚の週報で見る |
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| 問い合わせへの答え | ファイルを開いて探す | 一覧の表で品番と日付から探す |
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県内の公的な窓口も合わせて使う
茨城県には、工場のデジタル化を支える公的な窓口があります。茨城県産業技術イノベーションセンターは、令和元年度から県内中小企業のデジタル技術の活用を支援していて、令和6年度には生成AIを使うワークショップを開き、26社33名が参加しました。
また、茨城県DX推進ラボは「県及び県内産業支援機関などで構成」され、窓口は県の産業戦略部 技術革新課です。ここでいうDXは、機械を入れることに限らず、デジタルの道具で仕事の段取りを組み直す取り組み全体のことです。
公的な窓口は、講座や相談で、ほかの工場の取り組みや技術の動きを知るのに向いています。自社の書類を使って実際に道具を作り、毎日使える形にするところは、民間の支援先を使い分けると進めやすくなります。
茨城県のDX支援の窓口について読む
いばらきAIにご相談いただいたら
検査の記録表や注文書を1枚、写真でメールに添えてお送りください。初回のご相談(無料・オンライン・30分〜)で、その1枚をAIに読ませ、どの欄が読めてどの欄で迷うかをその場でお見せします。
道具にする段階では、ご相談を聞いたエンジニア(代表)がそのまま作ります。週報の形や印の付け方は、品質の担当の方に試作を触っていただきながら決めます。出来上がった道具には使い方のスライドと動画を付け、検査の担当が替わっても引き継げるようにします。
工場では、新しい品番や取引先が増えるたびに、読み取る項目の足し直しが出てきます。こうした小さな直しは、保守としてお受けします。
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まとめ:事務所の机にある書類を1枚選ぶ
- 茨城は製造品出荷額等が全国第8位。30〜299人の中規模の工場が3割を占める
- 最初に見直すのは、現場の作業より、現場と事務所の間の書類仕事
- 読み取り・集計・手順書の3つから、元の書類がそろっている仕事を選ぶ
明日、事務所の机の上にある書類のうち、「毎日書くのに、誰も集計していないもの」を1枚選んでみてください。その1枚が、工場の事務をAIで見直す最初の材料になります。