
「あの機械の段取り替えは、田中さんにしかできない」。工場でこう言われる作業は、田中さんが休んだ日に止まり、田中さんが辞めた日から先は、だれもできなくなるおそれがあります。手順書を作ろうとしても、ベテランの方は文章を書くのが苦手だったり、忙しくて時間が取れなかったりします。
そこで使えるのが、写真とAIです。ベテランの方に書いてもらうのではなく、作業の写真を撮り、写真ごとに一言ずつ話してもらう。それをAIで手順の形に整えれば、ベテランの方の手間は小さく済みます。
この記事では、技能伝承が進まない理由から、写真の撮り方、AIで手順書にする手順、人が確かめる所までを、段取り替えの例で説明します。
技能伝承が進まない理由
茨城県の統計では、県内の製造業の事業所(従業者4人以上)のうち、構成比の高い業種は金属製品(683事業所・14.1%)、食料品(596事業所・12.3%)、プラスチック製品(477事業所・9.9%)です。どれも、機械の調整や材料の見極めなど、手と目の経験がものをいう仕事を多く抱えています。
一方で、県の資料では、県内の15〜64歳の人口が令和2(2020)年の1,682千人から、令和32(2050)年には1,139千人(▲32.3%)まで減ると推計されています。経験を積んだ人が抜けたあと、同じだけの人を外から採るのは、これまで以上に難しくなります。
それでも技能伝承が進まないのには、よくある理由があります。
技能伝承が進まない理由と、写真とAIで変えられること| 進まない理由 | よくある様子 | 写真とAIで変えられること |
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| 書く時間が無い | ベテランほど現場が忙しく、机に向かえない | 撮って一言話すだけにし、文章はAIが整える |
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| 言葉にしにくい | 「ここは感覚で」「見れば分かる」になる | 写真を見せながら聞くと、言葉が出やすい |
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| 手順書が古くなる | 作った手順書と今のやり方がずれていく | 写真を撮り直し、変わった所だけ直せばよい |
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| 若手が読まない | 文字ばかりの手順書は現場で開かれない | 写真と短い文の組み合わせで、見て分かる形にする |
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記録がまったく無い仕事を、ベテランに話してもらって手順書にする方法は、別の記事で紹介しています。この記事では、目で見て覚えることが多い現場の作業を、写真を中心に残す方法に絞ります。
一人しか知らない仕事を、話してもらって手順書にする方法
作業を写真で残す
写真は、ベテランの方が撮るのではなく、若手や事務の方が横について撮るのがおすすめです。ベテランの方は作業に集中でき、撮る人は「今なにをしたか」をその場で聞けます。
撮るときの決めごと
- 1つの動作につき1枚。手が動くたびに撮るつもりで、多めに撮る
- 手元のアップと、機械全体が写る引きの写真を、要所で両方撮る
- 目盛りや表示の数字が読めるように、近づいて撮る
- 道具や部品は、使う前に並べた状態でも1枚撮る
- 撮るたびに、ベテランの方が言ったことをスマホの音声入力か、紙に一言で残す
最後の決めごとが、あとで手順書にするときの材料になります。「ここで右のレバーを半分戻す」「音が変わったら止める」のような一言で十分です。
写真に写らないものも聞いておく
音、におい、手ごたえのように、写真に写らない合図があります。「どこで判断しているか」を聞くと、「回る音が高くなったら」「押して戻ってこなくなったら」といった言葉が出てきます。これが、手順書でいちばん大事な部分になります。
コツと注意点を、AIで手順の形に
写真と一言がそろったら、AIで手順書の下書きにします。ふだん使っている生成AIの画面で始められます。
- 写真を作業の順に並べ、番号を付ける
- 写真の番号と、そのときの一言を対にした一覧をAIに渡す
- AIに「1つの手順は1文で、動詞で終える。判断の合図と注意点は分けて書く」と、書き方を決めて頼む
- 下書きの中で、言葉があいまいな所(「少し」「適当に」など)をAIに挙げさせる
- 挙がった所を、ベテランの方に数字や合図で言い直してもらう
- 言い直した内容を入れて、AIにもう一度整えさせる
4つ目の手順が効きます。人が読むと気にならない「少し締める」のような言葉も、AIに拾わせると目に入ります。「少し」が「4分の1回転」なのか「止まるまで締めて半回転戻す」なのかを聞き直すことで、若手が迷わない手順になります。
手順書の1行の形(例)| 欄 | 書くこと | 書き方の例 |
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| 手順 | 1つの動作を1文で | 上の型を外す |
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| 写真 | その動作の写真の番号 | 写真12・13 |
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| 判断の合図 | 次に進んでよいと分かる目や耳や手の合図 | 外した型の面に、樹脂が残っていない |
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| 注意 | けがや不良につながること | 型は熱いので、手袋を付けてから触る |
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| 理由 | なぜそうするか | 樹脂が残ると、次の製品に傷がつく |
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「なぜそうするか」を書き込む
コツには理由があります。「先に下の型を締める」のは、上から締めると型がずれるから、というように、理由が分かれば若手は応用がききます。下書きを読んだあとに「この手順はなぜこの順番か」をAIに質問させ、その問いをベテランの方に投げると、理由を聞き出しやすくなります。
例:段取り替えの手順書
ここでは、県内でプラスチックの部品を成形する、従業員50人ほどの工場を例に考えます(例として作った工場です)。成形機の型を替える段取り替えは、ベテランの方が1人で受け持っており、若手は見ているだけでした。
若手の方がスマホを持って横につき、1回の段取り替えで写真を約60枚撮りました。撮るたびに、ベテランの方の一言を音声入力で残しています。その一覧をAIに渡したところ、22の手順と、7つの判断の合図、5つの注意点の下書きができました。
例の工場で、下書きから直した所| 下書きの文 | あいまいだった所 | ベテランに聞いて直した文 |
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| 型を温める | どのくらい温めるか | 型の温度の表示が決めた値になるまで待つ(値は製品ごとの表を見る) |
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| ボルトを締める | 締める順番と強さ | 対角の順に仮締めし、最後に決めた道具で本締めする |
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| 試しに打って確かめる | 何を見て良しとするか | 最初の数個は捨て、その後の1個の寸法と表面のひけを見る |
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できた手順書は、写真と短い文を1手順ずつ並べた形にし、現場のタブレットで開けるようにしました。次の段取り替えでは、若手の方が手順書を見ながら作業し、ベテランの方が横で見て、足りない所をその場で書き足しています。
例の数字は、考え方を示すためのものです。実際の枚数や手順の数は、作業によって大きく変わります。
人が確かめる所
AIは、もっともらしい文を作るのが得意です。そのぶん、ベテランの方が言っていないことを、それらしく足してしまうことがあります。手順書は、けがや不良につながる文書なので、次の所は人が確かめます。
- 数字:温度、時間、回転数、寸法など、数字はすべて元の一言や機械の表示と見比べる
- 順番:手順の順番が写真の順番と合っているか
- 安全の注意:止める、外す、触らないといった安全に関わる文が抜けていないか
- 足された文:ベテランの方が言っていない文が入っていないか
確かめは、ベテランの方と若手の方が一緒に手順書を読みながら行うのがおすすめです。若手の方が「ここが分からない」と言った所が、まだ言葉になっていない所です。
安全や品質の決まりに関わる手順は、社内の決まりや取引先との取り決めに合っているかも、担当の方が確かめてから使います。
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いばらきAIの無料相談は、オンラインで30分〜です。メールで、会社名と、残したい作業を一言お送りください。社外に出せない図面や製品の写真は送らずに、作業の名前と困っていることだけで構いません。
業務ツールの開発では、話を聞いたエンジニアがそのまま作ります。写真と一言を集めて手順書の下書きにする仕組みや、現場のタブレットで手順書を開いて書き足せる道具を、試作を見ていただきながら形にします。説明のスライドと説明の動画もお渡しするので、手順書の作り方そのものも社内に残ります。
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まとめ:次の段取り替えにスマホを持って立ち会う
- ベテランには書いてもらわず、撮って一言話してもらう
- AIにあいまいな言葉を拾わせ、数字や合図で言い直してもらう
- 数字・順番・安全の注意は、ベテランと若手が一緒に確かめる
まずは次にベテランの方がその作業をするとき、若手の方がスマホを持って横に立ち会ってみてください。1回分の写真と一言がそろえば、手順書の下書きはすぐに作れます。