
事務所の棚に、年ごとに綴じた手書きの台帳が並んでいます。お客さまの名前、品物、日付、担当。「3年前にこのお客さまに何を納めたか」と聞かれるたびに、だれかが台帳を出してきて、ページをめくって探します。探し方を知っているのは、長く勤めている1人か2人です。
紙の台帳は、書き続けている限り役目を果たします。ただ、探す、数える、比べる、といった使い方には向いていません。データにすれば、検索も集計もできるようになります。
この記事では、紙の台帳が残る理由と、AIで読み取って表にする手順、読み違いの確かめ方を、手書きの台帳1冊分の例で説明します。
紙の台帳が残る理由
紙の台帳がデータにならないまま残るのには、どの会社にも似た理由があります。
- 量が多い:何十冊もある台帳を、人が打ち込むのは現実的でない
- 字が読みにくい:書いた人ごとに字の癖があり、略し方も違う
- 書き方が途中で変わる:年によって列が増えたり、書く順番が変わったりしている
- いまも書き続けている:新しいページは紙のまま増えていく
1つ目と2つ目は、AIで軽くできるようになりました。写真に撮った手書きのページから、文字を読み取って表の形にするのは、いまのAIが得意なことの1つです。3つ目と4つ目は、読み取りの前に決めておくことで片づけます。
中小企業基盤整備機構の調査では、AIを「既に導入している」中小企業は20.4%で、8割近くはまだ導入していません。紙の台帳のデータ化は、効果が目で見て分かりやすく、社内に「AIで何ができるか」を伝える最初の取り組みにも向いています。
読み取り→表にする手順
いきなり全部の台帳に手をつけるのではなく、まず1冊を選びます。1冊で手順を固めてから広げるほうが、やり直しが少なく済みます。よく調べものに使う年の台帳か、いちばん新しい台帳が向いています。
- 台帳の列を確かめ、データにする表の列を決める(例:日付・お客さまの名前・品物・数量・担当・備考)
- 「読めない字の扱い」を決める(読めない所は推測で埋めず、『判読不可』と書かせる)
- 台帳を1ページずつ、明るい所でまっすぐ上から撮る。ページの番号が写るようにする
- 写真を数ページずつAIに渡し、「1行を表の1行にして。ページ番号と、そのページの何行目かも添えて」と頼む
- 同じ写真を、別の日にもう一度AIに読ませ、2回の結果を並べる
- 2回の結果が食い違った所と、『判読不可』の所を、人が元の写真で確かめる
- 確かめ終わった表を、決めた場所に保存する。紙の台帳は、そのまま棚に戻す
4番の「ページ番号と何行目か」を添えさせるのは、あとで確かめるときのためです。表のどの行が台帳のどこから来たかが分かれば、気になった行の元の字を、写真ですぐに見られます。
7番で紙の台帳を残すのは、データの読み違いに気づいたときに、元に戻って確かめられるようにするためです。また、帳簿の種類によっては、紙のまま保存する決まりがあるものもあります。捨ててよいかは、顧問の税理士の方や、その帳簿に関わる決まりを確かめてから判断してください。
撮るときの段取り
撮る作業は、思ったより時間がかかります。机の上に台帳を開いて置く場所を決め、スマートフォンを同じ高さに構えて、ページを送りながら撮っていくと、写真の大きさがそろいます。綴じ目の近くの字が影になりやすいので、ページを手で軽く押さえ、影が出ていないかを数枚ごとに見ます。撮り終えたら、写真の枚数と台帳のページ数が合っているかを確かめてから、読み取りに進みます。
列が途中で変わる台帳は、年ごとに分ける
何年分も続く台帳では、途中で「担当」の列が増えた、品物の書き方が変わった、ということがよくあります。全部を1つの表にまとめようとせず、列の形が同じ年ごとに分けて読み取ります。年ごとの表ができてから、そろえられる列だけをつなげるほうが、取り違えが起きにくくなります。
読み違いの確かめ方
AIの読み取りは、全部が正しいわけではありません。とはいえ、何百行もある表を人が1行ずつ写真と見比べるのでは、手で打ち込むのと変わらない手間がかかります。確かめる所を絞ります。
読み違いが起きやすい所と、確かめ方| 起きやすい読み違い | 例 | 確かめ方 |
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| 似た形の数字 | 1と7、0と6、4と9 | 2回読ませて食い違った数字を、人が写真で見る |
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| くずした字の名前 | お客さまの名前の漢字 | 名前の一覧(取引先の一覧など)と照らし、一覧に無い名前だけ人が見る |
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| 略し方 | 「同上」「〃」「〇〇様方」 | 略し方の一覧を先にAIに渡し、展開のしかたを決めておく |
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| 行の飛ばしや重なり | 1行を読み飛ばす、2行を1行にまとめる | ページごとに、台帳の行数と表の行数が同じかを数える |
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| 書き足し・消し線 | 線で消して横に書き直した数字 | 消し線のある行に印を付けさせ、人が見る |
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なかでも効き目が大きいのは、2回読ませて食い違った所だけを見るやり方です。AIの読み違いは、毎回同じ所で起きるとは限りません。2回の結果が一致した所は、正しく読めている見込みが高く、食い違った所に読み違いが集まります。人が見る量を、全体のうちの一部に減らせます。
ただし、2回とも同じように読み違えることもあります。間違えると困る列(数量や日付など)は、食い違いが無くても、ページの初めの数行を抜き出して写真と見比べ、読み取りの調子を確かめておくと安心です。
例:手書きの台帳を1冊分
架空の会社の例です。ある年の納品の台帳1冊(およそ100ページ、1ページ20行ほど)をデータにすることにしました。
例:進め方と、確かめた量
事務の方が1冊を撮るのに半日ほどかかりました。AIに2回読ませた結果を並べると、食い違いが出たのは全体の1割に満たない行で、『判読不可』は数十か所でした。人が写真で確かめたのは、この食い違いと判読不可の所、名前の一覧に無かった名前、そしてページごとの行数が合わなかった3ページです。行数が合わなかったページは、いずれも1行が読み飛ばされていたので、その行を書き足しました。
例:できあがった表の一部(架空の内容)| ページ・行 | 日付 | お客さまの名前 | 品物 | 数量 | 担当 | 確かめ |
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| 12-3 | 4月8日 | 例:佐藤様 | 例:部品A | 4 | 山田 | |
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| 12-4 | 4月8日 | 例:田中様 | 例:部品B | 1(2回目は7と読んだ) | 山田 | 写真で1と確かめた |
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| 12-5 | 4月9日 | 判読不可 | 例:部品A | 2 | 鈴木 | 写真でも読めず、担当に聞いた |
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判読不可の所は、その年に台帳を書いていた方に聞くと、多くは分かりました。書いた方がもういない場合は、無理に埋めずに『判読不可』のまま残し、備考に「写真あり」と書いておきます。分からないことを分からないと残すのも、データの信用を守る大事な決めごとです。
できた表は、お客さまの名前や品物で検索できます。「3年前にこのお客さまに何を納めたか」は、台帳をめくらずに分かるようになりました。品物ごとの数量を月別に数えるのも、表計算で済みます。
1冊目で手順が固まったら、ほかの年の台帳に広げます。2冊目からは、略し方の一覧や名前の一覧が1冊目でできているので、確かめる所がさらに減ります。いまも書き続けている台帳は、月末にその月のページを撮って読み取る、と決めておくと、紙とデータが離れていきません。
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初回のご相談(無料・30分〜)はオンラインで行います。どんな台帳や帳簿が残っていて、データにしたら何に使いたいかをうかがいます。台帳の写真を数ページお借りできれば、その場でAIに読み取らせて、表の形でお見せします。
台帳の写真を入れると、2回の読み取りと食い違いの印付けまでが自動で済み、人は印の所だけを確かめればよい、という道具が必要なときは、業務ツールの開発としてお受けします。お話をうかがったエンジニアがそのまま作り、試作で1冊分を読み取って確かめていただきながら直します。道具と一緒に、説明のスライドと説明の動画もお渡しします。
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まとめ:よく使う台帳を1冊選び、10ページだけ撮る
- 紙の台帳は捨てずに残し、写しをデータにする
- 表の列と「読めない字は推測で埋めない」を先に決める
- ページ番号と行を添えさせ、2回読ませて食い違った所を人が見る
- ページごとの行数を数えて、読み飛ばしを見つける
まずは、いちばんよく調べものに使う台帳を1冊選び、10ページだけ撮ってAIに読ませてみてください。どのくらい読めるか、どこで迷うかが分かれば、1冊分の段取りが組めます。