
倉庫の工具の持ち出し記録を、パソコンに強い若手の社員が、プログラムを書かずに作れる道具で小さなアプリにしてくれた。紙の台帳より便利で、現場でも使われていた。ところが、その社員が別の営業所へ移ったとたん、項目を1つ足すこともできなくなった。こうした話は、規模を問わずよく耳にします。
AIを使えば、業務の道具を社内で作るハードルは下がっています。一方で、作ったあとに直せる人がいないと、道具は止まります。社内で作るか、社外に頼むかは、作れるかどうかより、作ったあとをだれが持つかで決まります。
この記事では、AIを使った業務の道具を、社内で作るものと頼むものに分ける目安と、どちらを選んでも困らないための決めごとを説明します。
社内で作れるもの・頼んだほうがよいもの
いまは、プログラムを書かずに画面を組み立てて道具を作れるサービス(ノーコードと呼ばれます)や、表計算ソフトにAIを組み合わせる方法があり、社員の方が自分で道具を作れる場面が増えています。AIに頼めば、表計算の計算式や簡単なプログラムも書いてくれます。
では、何でも社内で作ればよいかというと、そうではありません。分かれ目になるのは、作る難しさより、止まったときの影響と、直すときの手間です。次の表を目安にしてください。
社内で作るか、頼むかの目安| 見ること | 社内で作りやすい | 頼んだほうがよい |
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| 使う人の数 | 数人、同じ部署の中だけ | 部署をまたぐ、全社員が使う |
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| 止まったときの影響 | しばらく紙や表計算に戻して回せる | 出荷・請求など、止まると取引先に迷惑がかかる |
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| ほかの仕組みとのつながり | 単独で使う | 販売管理や会計のソフト、ほかのサービスとデータをやり取りする |
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| 扱う情報 | 社内の情報だけ | お客さまの名前・連絡先など、個人情報を扱う |
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| 変える頻度 | 作ったらほとんど変えない | 取引先や品目が増えるたびに直す |
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| 作る人のその後 | 作った人がその仕事を続ける | 作った人が異動や退職をする見込みがある |
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右の列に1つでも当てはまれば、社外に頼むか、少なくとも社外の人に見てもらう形を考えたほうが安全です。左の列にすべて当てはまるなら、社内で作って試す価値があります。
例:社内にある3つの手作りの道具を表に当てはめる
例として、ある会社に社員が作った道具が3つあったとします。①倉庫の工具の持ち出し記録(倉庫の3人が使う、止まっても紙で回せる)は、左の列にほぼ当てはまるので社内のままで構いません。②営業の見積書のひな形(営業5人が使う、作った人が来年異動の見込み)は、作る人のその後が右の列なので、直せる人を増やすか、頼むかを考えます。③出荷の一覧と請求の表を写し合う表計算(経理と倉庫をまたぐ、止まると請求が遅れる、会計のソフトに写している)は、右の列に3つ当てはまるので、頼む候補です。
最初は社内で試し、育ったら頼む
社内と社外は、どちらか一方に決める必要はありません。部署の中で小さく作って試し、使う人が増えたり、ほかの仕組みとつなぐ必要が出たりした時点で、社外に作り直しを頼むという順番もあります。社内で作ったものがあると、頼むときに「こういう動きがほしい」が具体的に伝わるので、話も早くなります。
作ったあと、だれが直すか
冒頭の工具の持ち出し記録のように、社内で作った道具が止まる理由の多くは、作った人がいなくなることです。道具そのものが壊れるより、直し方を知る人がいなくなるほうが先に起きます。
中小企業基盤整備機構の調査では、AIなどの運用の課題として「運用担当者の負荷が重い」が3割前後挙がっています。作るところまでは勢いで進んでも、使い続けるあいだの手入れが一部の人に偏ると、続かなくなります。
社内で作る場合も、社外に頼む場合も、作り始める前に次の4つを決めておきます。
- 直す人:不具合が出たとき、項目を足したいときに、だれが手を入れるか(社内なら2人、社外なら窓口)
- 記録の置き場所:どのサービスで作り、どのアカウントで動いているかを、決まった場所に書いておく
- アカウントの名義:作った人の個人のアカウントではなく、会社の名義にしておく
- 止まったときの戻し方:道具が使えないあいだ、紙や表計算でどう回すか
例:社内で作った道具の引き継ぎ表
例として、工具の持ち出し記録のアプリなら、次の項目を1枚の表に書いておきます。道具の名前(工具の持ち出し記録)/何のための道具か(だれがどの工具をいつ持ち出し、いつ戻したかを残す)/作ったサービスとアカウント(会社の名義のアカウント名)/使っている人(倉庫の担当3名と現場の職長)/直せる人(作った人と、もう1人)/よくある直し(工具を足す、現場名を足す)とその手順/止まったときの戻し方(紙の台帳を倉庫の棚に置いておく)。この1枚があれば、作った人が異動しても、少なくとも次の人が何から調べればよいかが分かります。
社外に頼む場合に確かめること
社外に頼む場合も、作ってもらって終わりにはできません。頼む前に、次の点を確かめておきます。
- アカウントは御社の名義で作るか(相手の名義だと、契約が終わると使えなくなることがある)
- 作ったあとの不具合の対応や小さな直しを、どんな形で受けてくれるか
- 使い方の説明が、社内に残る形(説明書や動画など)で渡されるか
- 大きな作り足しは、どう相談して進めるか
社内で育てる人の決め方
社内で道具を作っていくなら、作れる人を育てる必要があります。ここでよくあるのが、パソコンが好きな若手に任せきりにする形です。冒頭の例と同じで、その人が動くと止まります。
向いているのは「仕事の流れを説明できる人」
AIが計算式やプログラムを書いてくれるいま、道具づくりで難しいのは、操作より「何を作るか」を決めるところです。どの仕事の、どこで、だれが、何を入れて、何が出てくればよいかを説明できる人が、AIにも上手に頼めます。
- その仕事をふだんやっていて、手間のかかる所を知っている
- 自分のやり方を、ほかの人に言葉で説明できる
- 作ったものを、ほかの人に使ってもらうことに抵抗がない
この3つがそろっていれば、パソコンに詳しくなくても構いません。逆に、作るのは得意でも、仕事の流れを知らない人が作った道具は、現場で使われにくくなります。
2人で組ませる
育てる人は、1人ではなく2人で組ませるのがおすすめです。1人が作り、もう1人が使い手として試して直しを頼む。役を交代しながら進めると、どちらかが休んだり異動したりしても、道具は止まりにくくなります。
社内で作らない線も決めておく
育てる人に任せる範囲も、先に決めておきます。お客さまの個人情報を扱う道具や、販売管理・会計とつなぐ道具は社内で作らない、といった線を引いておくと、作る人も安心して進められます。その線の外に出る道具が必要になったときが、社外に頼む合図です。
作ってよいかを決める人も決める
社内で作る道具が増えてくると、同じような表がいくつもできたり、だれも使っていない道具が残ったりします。新しく作る前に、社長か部署の責任者が「作ってよいか」を一言で決める形にしておくと、道具が散らばりません。決める人は、引き継ぎ表を見て、直す人が2人そろっているかを確かめるだけで十分です。
見えにくい手間も比べる
社内で作ると「お金がかからない」と考えがちです。けれども、社内で作る場合にも、表に出にくい手間があります。頼むか迷ったときは、次の表で両方の手間を並べてみてください。
社内で作る場合と、頼む場合の手間| 手間 | 社内で作る | 社外に頼む |
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| 作る時間 | 作る人の本来の仕事の時間を使う。そのあいだ本業が遅れる | 相手が作る。社内は聞き取りと試作の確かめに時間を使う |
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| 覚える時間 | 道具づくりのサービスやAIへの頼み方を覚える時間がかかる | 使い方を覚える時間だけで済む |
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| 直す時間 | 直すたびに作った人の手が止まる | 直しの頼み方と、受けてもらう形を決めておく |
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| 利用料 | 道具づくりのサービスやAIの利用料が毎月かかることがある | 同じく利用料がかかる。作る費用と支える費用が別に出る |
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| 止まったときの損 | 直せる人がいないと、紙に戻るまでの混乱が大きい | 窓口に連絡して直してもらうまで待つ |
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作る人の時間は、給与として毎月出ている費用です。作るのに何日かかり、そのあいだ本来の仕事がどれだけ止まるかを見積もると、社内で作るほうが高くつく場合もあります。反対に、作る人がその仕事の担当で、作ること自体が仕事を楽にするなら、社内で作る意味は大きくなります。
いばらきAIにご相談いただいたら
初回のご相談(無料・30分〜)はオンラインで行います。作りたい道具や、社内で作って困っている道具の話をうかがい、その場でAIを使って、動くものを1つお見せします。社内で作るか、頼むかの判断も、一緒に考えます。
頼むほうがよい道具は、業務ツールの開発でお受けします。話をうかがったエンジニアがそのまま、試作を見ながら作ります。アカウントは御社の名義で作り、道具と一緒に説明のスライドと説明の動画をお渡しするので、使い方が社内に残ります。開発だけのご依頼も、聞き取りのうえでお受けします。作ったあとは、保守として不具合の対応・小さな直し・問い合わせの窓口をお引き受けします。
社内で作れる人を育てたいときは、AI研修をご用意しています。AIの使い方を全6回で1つずつ身につける研修で、1〜5名・1回2時間・約2か月、オンラインで行います。演習の題材は、メールの返事や議事録など、ふだんの事務から選びます。
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まとめ:いまある道具の引き継ぎ表を1枚作る
- 社内で作るか頼むかは、使う人の数・止まったときの影響・つなぐ先・扱う情報で決める
- どちらでも、直す人・記録の置き場所・アカウントの名義・止まったときの戻し方を先に決める
- 育てる人は、仕事の流れを説明できる人を2人で組ませる
まずは、社内ですでに使われている手作りの表やアプリを1つ選び、引き継ぎ表を1枚書いてみてください。「直せる人」の欄が1人しか埋まらなければ、そこが最初に手を打つ所です。