
月曜の朝、出荷の担当の方から「画面が開かない」と電話が入る。作ってくれた人の連絡先を探しても、名刺が見当たらない。そもそも、直してもらうのにいくらかかるのか、どこまで頼んでよいのかも決めていなかった。業務ツールを入れた会社で、ときどき起きることです。
ツールは、作った日がいちばん新しい状態です。使う人が増え、扱う品目が増え、つないでいる外のサービスが変わるうちに、少しずつ合わなくなっていきます。保守は、そのずれを小さいうちに直すための約束です。
この記事では、ツールが止まるのはどんなときか、保守で決めておくこと、小さな直しと新しい機能の分け方、作った人がいなくなったときの備えを、作る前に決めておける形で説明します。
業務ツールが止まるのはどんなときか
作った直後に問題なく動いていたツールでも、使い続けるうちに止まったり、おかしな動きをしたりします。原因は、作りの悪さよりも、作ったあとの変化であることが多いです。
止まる原因になりやすい変化
- 使う人が増えた:3人で使う想定のツールを、20人で同時に開くようになった
- データが増えた:1年分の記録で作った一覧が、3年分になって表示が遅くなった
- つないでいるサービスが変わった:AIや表計算のサービスの仕様や料金の形が変わった
- 仕事のやり方が変わった:取引先が増えた、伝票の書式が変わった、新しい商品の区分ができた
- パソコンやスマートフォンが替わった:新しい機種や更新後の画面で、ボタンが押しにくくなった
AIを使ったツールでは、つないでいるAIのサービスが更新されて、同じ頼み方でも答えの形が少し変わることがあります。動いてはいるのに、表の列がずれる、要約が長くなる、といった形で出てきます。気づくのは、毎日使っている現場の方です。
運用の悩みは、どこの会社にもある
中小企業基盤整備機構の調査(令和8年3月)では、AIを導入した中小企業が挙げた導入後の運用課題は、「ランニングコストが高い」が44.0%で最も高く、次いで「運用担当者の負荷が重い」(29.1%)、「従業員による活用が進まない」(28.9%)の順でした。
入れたあとの手間は、多くの会社が感じています。保守を決めておくのは、その手間を社内のだれか一人に背負わせないためでもあります。
利用料と使う量を、月に一度見る
調査で最も多かった「ランニングコストが高い」は、使い始めてから気づくことが多い悩みです。AIや表計算のサービスの利用料は、使う人の数や、AIに読ませる量で変わるものがあります。
月に一度、請求の明細と、ツールを使った回数や人数を並べて見る担当を決めておきます。急に増えた月があれば、使い方が変わったのか、設定に無駄があるのかを、作った人と一緒に確かめます。使っていない人のアカウントが残っていないかも、このときに見ます。
止まったときの「代わりの手順」を決めておく
保守を頼んでいても、直るまでのあいだ仕事は待ってくれません。ツールが止まった日に、何で仕事を回すかを先に決めておくと、現場があわてずに済みます。
たとえば、入出庫を記録するツールなら「止まったら、紙の記録表に書き、直ったあとでまとめて入れる」。AIで文面の下書きを作るツールなら「止まったら、前回の文面をコピーして手で直す」。代わりの手順は、ツールを作る前の、紙やExcelで回していたころのやり方であることが多いです。
代わりの手順を書いた紙を1枚、ツールを使う場所に貼っておきます。止まった日にそれを見れば、「どうしよう」で手が止まる時間は短くなります。
保守で決めておくこと
保守の約束は、細かく見えても、決めることは大きく4つです。作る前の打ち合わせで、次の表の左の列を1つずつ確かめておくと、あとで困りません。
保守で決めておくことと、確かめる問い| 決めること | 確かめる問い | 決めていないと起きること |
|---|
| 範囲 | 不具合の対応・小さな直し・使い方の質問のうち、どれを頼めるか | 「これは保守ですか」のやり取りで、直るまでが遅れる |
|---|
| 連絡の仕方 | だれが、何で、どんな情報を添えて連絡するか | 電話で口頭だけ伝わり、どの画面の話か分からない |
|---|
| 名義 | ツールとAIのアカウントは、だれの名義で作られているか | 作った人と連絡が取れなくなると、中身を開けない |
|---|
| 渡してもらう資料 | 使い方の説明、画面ごとの説明、操作の動画はあるか | 新しく入った人に教えられるのが、一人の社員だけになる |
|---|
| 見直しの時期 | 保守の中身を、いつ、だれと見直すか | 使い方が変わっても、最初の約束のまま続く |
|---|
連絡の仕方は、書く中身まで決めておく
不具合の連絡は、「動かない」だけでは確かめに時間がかかります。社内で連絡の書き方をそろえておくと、直る早さが変わります。
- どの画面で(ツールの名前と、開いていた画面)
- 何をしたときに(押したボタン、入れた内容)
- どうなったか(止まった、表示が違った、文字が出た)
- いつからか(今日から、先週の更新のあとから)
- 画面の写真(スマートフォンで撮ったもので十分)
例:連絡のひな形を1つ置いておく
例として、社内のチャットやメールの下書きに「画面/したこと/起きたこと/いつから」の4行のひな形を置いておきます。担当の方は埋めて送るだけです。受ける側も、どこを見ればよいかがすぐに分かります。
社内の窓口役を1人決める
現場の何人もが、思い思いに作った人へ連絡すると、同じ不具合が3回届いたり、反対の頼みごとが別々に届いたりします。社内で「ツールのことはこの人に集める」という窓口役を1人決めておくと、連絡が整理されます。
窓口役は、パソコンに詳しい人である必要はありません。現場の声を聞いて、ひな形に沿って書き直し、送る役目です。総務の方や、そのツールをいちばん使う部署の責任者が向いています。休みのときに代わる人も、あわせて決めておきます。
AIを使ったツールは「答えの見本」を残す
AIを使ったツールには、ほかのツールにない確かめ方があります。いつも入れる内容と、そのときに返ってきてほしい答えを、3〜5組ほど見本として残しておくことです。
例として、注文のメールから品名と数量を抜き出すツールなら、実際に届いたメールを3通選び、正しい抜き出し結果と一緒に保存しておきます。AIのサービスが更新されたと聞いたら、その3通を入れ直して、同じ答えが返るかを見ます。違っていれば、頼み方を直す合図です。
この見本は、保守を頼む側にも、受ける側にも役に立ちます。「なんとなくおかしい」ではなく、「この見本で、この欄がずれた」と伝えられるからです。
小さな直しと新しい機能の分け方
保守の話でいちばんもめやすいのが、「この直しは保守の中か、別の依頼か」です。分け方の目安は、仕事の流れが変わるかどうかです。
頼みたいことの例と、どちらに当たるかの目安| 頼みたいこと(例) | 仕事の流れは変わるか | 目安 |
|---|
| 一覧に「担当者」の欄を1つ足したい | 変わらない | 小さな直し |
|---|
| ボタンの文字を分かりやすくしたい | 変わらない | 小さな直し |
|---|
| 新しい取引先の伝票の書式にも対応したい | 少し変わる | 内容を見て相談 |
|---|
| 承認の段階を1つ増やしたい | 変わる | 作り足し(開発) |
|---|
| 別の部署でも使えるようにしたい | 変わる | 作り足し(開発) |
|---|
| ほかのシステムとつないで、自動で取り込みたい | 変わる | 作り足し(開発) |
|---|
「内容を見て相談」の行のように、どちらとも言える頼みごともあります。そのときに迷わないよう、「迷ったら一度相談して、見積もりを見てから決める」と社内で決めておくのが現実的です。
例:「欄を1つ足す」が作り足しになるとき
例として、日報のツールに「現場名」の欄を足すだけなら小さな直しです。ところが、その現場名ごとに月の合計を出して、社長に毎週届けたいとなると、集計と送る仕組みが新しく要ります。頼む言葉は似ていても、中身は作り足しです。頼むときは「何のために足したいか」まで書くと、どちらに当たるかが早く分かります。
小さな直しをためすぎない
小さな直しは、1つずつは小さくても、ためると使いにくさが積み重なります。現場の方が「まあいいか」と我慢しているうちに、紙やExcelに戻ってしまうこともあります。月に一度、気になっていることを集めて送る日を決めておくと、我慢がたまりません。
3か月ごとに、保守の中身を見直す
保守の約束は、作った日の使い方を前提に決めています。使い方が変われば、頼みたいことも変わります。3か月に1回ほど、窓口役と作った人とで、次のことを確かめる時間をとると、約束と実際のずれが小さく保てます。
- この3か月に届いた連絡を並べ、多かった種類を見る(不具合か、使い方の質問か、直しの頼みか)
- 使う人の数と、扱うデータの量が、作ったときからどれだけ増えたかを見る
- 現場で我慢している使いにくさが残っていないか、窓口役が聞いてくる
- 次の3か月で直すものと、作り足しとして相談するものに分ける
使い方の質問が多ければ、説明の動画を足すほうが早いかもしれません。直しの頼みが多ければ、仕事の流れそのものが変わり始めている合図です。数を見ると、次に打つ手が選びやすくなります。
作った人がいなくなったら
外に頼んで作ったツールで、社長がいちばん心配されるのがここです。作った人が辞めた、連絡が取れなくなった、という話は珍しくありません。備えは、作る前に決めておく3つです。
- アカウントを自社の名義で作ってもらう:ツールを置いている場所、AIのサービス、表計算のサービスの契約を、御社の名義にしておきます。
- 説明の資料を受け取る:画面ごとに何をするかの説明と、操作の動画をもらっておきます。
- 中身の置き場所を一覧にしておく:どのサービスに、どのアカウントで、何が入っているかを1枚にまとめ、社内の決まった人が持っておきます。
この3つがそろっていれば、作った人と連絡が取れなくなっても、ツールは手元に残ります。別の人に直してもらうときも、資料と一覧が出発点になります。
例:アカウントの一覧の書き方
例として、表に「サービスの名前/何に使っているか/名義/ログインできる社内の人」の4列を作ります。行は、ツールの置き場所、AIのサービス、データの保存先などです。パスワードそのものは書かず、社内の決まった方法で別に管理します。
データを取り出せるかも確かめる
もう1つ見落としやすいのが、ツールに入れた記録を、表の形で取り出せるかどうかです。取り出せれば、ツールを作り直すときも、ほかのツールに移すときも、これまでの記録を持っていけます。
作る前の打ち合わせで「入れた記録は、Excelで開ける形で取り出せますか」と一言聞いておきます。取り出す手順も、説明の資料に入れてもらうと安心です。
別の人に頼むときに渡すもの
それでも作り手を替えることになったら、新しく頼む人に次の4つを渡します。これだけで、中身を一から調べ直す時間がかなり減ります。
- アカウントの一覧(名義とログインできる社内の人)
- 説明のスライドと操作の動画
- 取り出した記録(Excelで開ける形)
- これまでの連絡と直しの記録(窓口役が残したもの)
最後の「直しの記録」は、窓口役がメールを1つのフォルダにまとめておくだけで十分です。何が、いつ、なぜ変わったかが分かると、新しい人は同じ失敗をくり返さずに済みます。
いばらきAIにご相談いただいたら
いばらきAIの保守では、いばらきAIが作った業務ツールについて、不具合の対応、小さな直し、問い合わせの窓口をお引き受けします。機能の大きな作り足しや新しい道具づくりは、開発としてご相談のうえでお見積もりします。
アカウントはお客さまの名義で作り、作ったものはお客さまのものです。道具と一緒に説明のスライドと説明の動画をお渡しするので、使い方も社内に残ります。保守のご契約のあいだは、作った本人が続けて支えます。
連絡はメールでお送りください。どの画面で、何をしたときに、どうなったかを一言添え、画面の写真があれば一緒にお送りいただくと、確かめが早く進みます。保守の内容は、どこまで任せたいかをうかがって決めます。
保守について見る
まとめ:作る前に、保守の4つを決めておく
- 止まる原因は、作ったあとの変化にあることが多い
- 範囲・連絡の仕方・名義・渡してもらう資料を、作る前に決める
- 仕事の流れが変わる直しは、保守ではなく作り足しとして相談する
- アカウントの一覧を1枚作り、社内の決まった人が持つ
まずは、いま使っているツールについて、アカウントの名義がだれになっているかを確かめてみてください。分からなければ、それが最初に決めることです。これから作る予定なら、打ち合わせの前に、この記事の表の左の列を印刷して持っていくと、聞き漏らしが減ります。