
12月、年末調整の時期が来た。去年やった総務の方は春に退職している。共有フォルダには「年末調整2025」というフォルダがあるものの、中にあるのは提出済みの書類だけ。何から始めて、どこに何を出したのかは、どこにも書いていない。
年に1回の仕事は、1年たつと、やった本人でも細かい所を忘れます。担当が替わっていれば、なおさらです。引き継ぎの資料を作ろうとしても、終わったあとに思い出して書くのは手間がかかり、つい後回しになります。
この記事では、年1回や月末の仕事を「やりながら」記録し、AIで次の年に読める手順書に整え、次の担当が確かめる所を決めるまでの流れを説明します。
年1回の仕事が忘れられる理由
毎日の仕事は、手が覚えます。月に1回の仕事も、何度かくり返すうちに体に入ります。ところが年に1回の仕事は、次に来るのが12か月後です。その間に、細かい手順は記憶から抜けていきます。
忘れられる3つの理由
- 間が空く:次にやるのが1年後なので、手順を思い出す手がかりが残らない
- 前回の記録が「結果」だけ:提出した書類は残っていても、どの順番で、何を見て作ったかは残っていない
- 決まりが変わる:国や役所の様式、使っているソフトの画面、取引先の締め日などが、1年のうちに変わっている
3つ目が厄介です。去年の手順書があっても、そのとおりに進めると、変わった所でつまずきます。手順書には「去年はこうだった」だけでなく、「毎年変わっていないか確かめる所」を書いておく必要があります。
年1回・月1回の仕事の例と、忘れやすい所| 仕事の例 | 頻度 | 忘れやすい所 |
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| 年末調整 | 年1回 | 社員から集める書類の種類と、集める順番 |
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| 決算の準備 | 年1回 | 税理士さんに渡す資料の一覧と、締め切り |
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| 棚卸し | 年1〜2回 | 数え方の決まり、数えた数を入れる表の場所 |
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| 賞与の計算 | 年1〜2回 | 計算の元にする数字と、ソフトでの操作の順番 |
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| 月末の締め | 月1回 | 取引先ごとの締め日の違い、例外の扱い |
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| 請求書の発行 | 月1回 | 取引先ごとの書式や送り方の違い |
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人が足りない会社ほど、引き継ぎが難しい
茨城県議会の特別委員会の資料(産業戦略部)では、民間信用調査会社の調査として、令和7(2025)年1月時点で、正社員が「不足」と感じている県内企業は56.1%で、コロナ禍以降で最も高くなっていると紹介されています。
人が足りない会社では、年1回の仕事をする人と、それを教わる人が、同じ時期にそろわないことがよくあります。前の担当が辞めてから後任が入る、後任も別の仕事と掛け持ち、という形です。人から人へ口で伝える引き継ぎに頼れないからこそ、記録で残す必要があります。
やりながら記録する手順
引き継ぎの資料が残らないいちばんの理由は、「終わってから書こう」とすることです。年1回の仕事は、終わったころには別の仕事が待っています。書く時間はまず取れません。
そこで、書くのをやめて、仕事をしながら材料だけを残します。きれいな手順書にするのは、あとでAIに手伝わせます。担当の方がやることは、写真を撮る、声で話す、短いメモを打つ、の3つだけです。
- 始める前に、その年の仕事用のフォルダを1つ作る(例:「年末調整_記録」)
- 仕事を1つ進めるごとに、パソコンの画面やスマートフォンで、使った画面や書類の写真を撮ってフォルダに入れる
- 手を止めずに、スマートフォンの録音で「いま何をしているか、なぜそうするか」を一言ずつ話す
- 迷った所、人に聞いた所、調べた所は、その場で1行のメモを打つ(だれに聞いたか、どこを見たかも)
- 使った元の書類や、受け取ったメールも、同じフォルダに保存する
- 全部終わったら、その日のうちに15分だけ取って、フォルダの中身を見直し、抜けている所を一言足す
例:録音で話す一言の中身
例として、年末調整の途中で、「いま、社員さんから集めた保険料の控除証明書を、名前の順に並べています。去年、順番がばらばらで、ソフトに入れるときに探すのに時間がかかったので」と話します。手順だけでなく「なぜそうするか」を一言添えるのがこつです。次の担当が、自分で判断するときの手がかりになります。
いちばん大事なのは「迷った所」
記録の中で、次の担当にとっていちばん役に立つのは、迷った所と、人に聞いた所です。うまくいった手順は、画面を見ればおおよそ分かります。ところが、どこで迷い、だれに聞いて解決したかは、記録しなければだれにも分かりません。
「この欄は何を入れるか分からず、税理士さんにメールで聞いた。答えは○○」という1行が、翌年の担当の半日を救うことがあります。迷った所のメモだけは、少し手間でもその場で残すように、担当の方にお願いしておきます。
月末の仕事は、3か月分の記録で形にする
月1回の仕事は、年1回の仕事より回数が多いぶん、1回の記録で手順書にするのは早すぎます。月によって、取引先が多い月、例外の多い月があるためです。3か月続けて同じやり方で記録をとり、3回分の材料をまとめてAIに渡すと、毎月同じ所と、月によって違う所が分かれて見えてきます。
「毎月同じ所」は、手順書の本文に。「月によって違う所」は、「例外」の見出しを立てて、どんなときに、どう扱ったかを並べます。例外の一覧が育つと、担当が替わっても、珍しい月にあわてずに済みます。
AIで次の年に読める形に
集めた写真・録音・メモは、そのままではばらばらで、次の担当が読むには時間がかかります。ここでAIを使います。録音を文字に起こし、メモと写真の説明とあわせて、決まった形の手順書に整えさせます。
手順書の決まった形
AIに整えさせるときは、毎回同じ形で出すように頼みます。形がそろっていると、年1回の仕事が何種類あっても、読む側が迷いません。
年1回の仕事の手順書の形(例)| 見出し | 書く中身 |
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| この仕事の目的 | 何のために、だれに出すものか(1〜2行) |
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| 時期と締め切り | いつ始めて、いつまでに終えるか。去年いつ始めたか |
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| 準備するもの | 集める書類、使うソフト、ログインに要るもの(パスワードそのものは書かない) |
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| 手順 | 番号つきで、1行に1つの作業。写真のファイル名を添える |
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| 迷った所と答え | 去年迷った所、だれに聞いたか、その答え |
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| 毎年確かめる所 | 様式や決まりが変わっていないか、どこで確かめるか |
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| 問い合わせ先 | 税理士さん、役所の窓口、ソフトの会社など、名前と連絡の仕方 |
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AIに頼むときの流れ
- 録音を文字に起こす(AIの文字起こしを使う)
- 起こした文、メモ、写真のファイル名の一覧をまとめてAIに渡し、上の表の形で手順書の下書きを作らせる
- 「迷った所と答え」と「毎年確かめる所」が空になっていないかを見る。空なら、メモから拾うように頼み直す
- やった本人が下書きを読み、違う所・足りない所を直す
- できた手順書を、仕事のフォルダのいちばん上に置く
例:AIへの頼み方
例として、「次の文字起こしとメモは、当社の年末調整の作業記録です。次の年に初めて担当する人が読んで進められるように、『目的/時期と締め切り/準備するもの/手順/迷った所と答え/毎年確かめる所/問い合わせ先』の見出しで手順書にしてください。記録にないことは書かず、分からない所は『記録なし』と書いてください」と頼みます。最後の一文で、AIが話を補って作るのを防ぎます。
写真は、ファイル名を「03_控除証明書を並べる」のように、手順の番号と一言の説明にしておくと、AIが手順と写真を結びつけやすくなります。撮ったその場で名前を変えるのが手間なら、フォルダの中の順番を変えないようにだけ気をつけ、あとでまとめて付けます。
4つ目の「本人が読んで直す」は省けません。AIは、話の順番を入れ替えたり、言っていないことを補ったりすることがあります。特に、数字・締め切り・提出先は、元の書類と見比べて確かめます。
社員の個人情報に気をつける
年末調整や賞与の記録には、社員の方の個人情報が含まれます。写真や録音をAIに渡す前に、名前や金額が写っている所を伏せる、手順書には個人の数字を書かない、といった決まりを先に作っておきます。使うAIは、入れた内容を学習に使わない設定になっているかを確かめてから使います。
生成AIに入力してよい情報の決め方
次の担当が確かめる所
手順書ができても、次の年に開かれなければ意味がありません。そして開いたときに、去年のとおりに進めてよいかを確かめる必要があります。次の担当の方には、手順書を上から順に進める前に、次の確かめを先にしてもらいます。
次の年、始める前に確かめること| 確かめること | どこで確かめるか |
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| 様式や決まりが変わっていないか | 国や役所の最新の案内、税理士さん・社労士さんへの問い合わせ |
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| 使っているソフトの画面が変わっていないか | ソフトの会社のお知らせ、実際にログインして画面を見る |
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| 問い合わせ先の担当者が替わっていないか | 去年のメールの相手に、今年の窓口を聞く |
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| 社内のやり方を変えた所はないか | この1年の社内の決めごと、上司への確認 |
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| 去年の「迷った所」は今年も同じか | 手順書の「迷った所と答え」を読み、答えが今も正しいか確かめる |
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開く日を、1か月前に決めておく
年1回の仕事は、始める時期そのものを忘れることもあります。手順書ができたら、翌年の始める日の1か月前に、会社の予定表へ「年末調整の手順書を開く」と入れておきます。担当が替わっていても、予定表を見た人が手順書にたどり着けます。
重なる時期があれば、一度だけ一緒にやる
前の担当と次の担当が同じ時期に社内にいるなら、手順書を見ながら一度だけ一緒にやるのがいちばん確かです。進めるのは次の担当、横で見るのが前の担当です。手順書どおりに進まなかった所が、そのまま手順書の直す所になります。
重なる時期がない場合でも、前の担当と連絡が取れるなら、「手順書を読んで分からなかった所」を3つだけまとめて聞きます。全部を聞こうとすると相手の負担になりますが、3つなら答えてもらいやすくなります。
今年の記録で、手順書を育てる
次の担当の方も、手順書を見ながら仕事をするときに、同じように写真・声・メモで記録を残します。終わったら、今年の材料をAIに渡し、「去年の手順書と比べて、変わった所を足して」と頼みます。手順書は毎年少しずつ新しくなり、迷った所の答えが増えていきます。
例:2年目の手順書に足されたこと
例として、1年目の手順書で「控除証明書を名前の順に並べる」とあった所に、2年目の担当が「今年から、社員さんにスマートフォンで撮って送ってもらう形にした。並べる手間がなくなった」と足したとします。やり方が変わった理由まで残るので、3年目の担当は、どちらのやり方を選ぶかを自分で決められます。
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まとめ:次の年1回の仕事で、フォルダを1つ作る
- 年1回の仕事は、間が空く・結果しか残らない・決まりが変わる、で忘れられる
- 終わってから書かず、やりながら写真・声・メモで材料を残す
- 材料をAIに渡して決まった形の手順書にし、本人が読んで直す
- 次の年は「毎年確かめる所」から始め、今年の記録で手順書を育てる
まずは、次に来る月末や年1回の仕事について、始める前に記録用のフォルダを1つ作ってみてください。写真を撮って入れるだけでも、来年の担当にとっては大きな手がかりになります。