
朝礼のあと、社長から「最近よく聞くAI、うちでも使えるのか調べておいて。来週の会議で説明してくれ」と声をかけられた。総務や経理を受け持ちながら、パソコンにいちばん慣れているからという理由で、こうした役が回ってくる方は多いと思います。
調べ始めると、AIの記事は山ほど出てきます。ところが、読めば読むほど話が大きくなり、会議で何を話せばいいのかが分からなくなりがちです。社長が会議で決めたいのは、AIの仕組みではなく「うちで、何から、どこまで試すか」です。
この記事では、AIの導入を調べるよう頼まれた担当の方が、社内で説明する資料をA4 1枚で作る手順を説明します。
社長が知りたいことから並べる
説明の資料でよくあるのが、「生成AIとは何か」「世の中の使われ方」から始まり、最後にやっと自社の話が出てくる並べ方です。会議の時間は限られているので、自社の話にたどり着く前に「で、うちはどうするの」と聞かれてしまいます。
社長がその会議で知りたいことは、だいたい次の表のとおりです。資料はこの順に、1つずつ答える形で作ります。
社長が知りたいことと、資料で答える場所| 社長が知りたいこと | 資料で答える場所 | 書き方のこつ |
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| うちのどの仕事に使えるのか | 1. 試したい仕事 | 仕事の名前で1つに絞る(「事務全般」ではなく「お客さまからの問い合わせメールの返信」) |
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| それで何が変わるのか | 2. 今の手間 | 今かかっている時間を、自社で数えた数字で書く |
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| 何をどこまでやるのか | 3. 試す範囲と期間 | 使う人・期間・やめる目安を書く |
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| 危なくないのか | 4. 守ること | 入れない情報と、人が確かめる所を書く |
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| ほかの会社はやっているのか | 5. 県内・全国の調査 | 調査を1〜2個、名前と時期つきで |
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| いくらかかるのか | 6. 費用の内訳 | 金額より先に、何に払うのか(作る・使う・支える)を書く |
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| 社長は何を決めればいいのか | 7. 決めてほしいこと | 「試してよいか」「使う人はだれか」など、はい・いいえで答えられる形に |
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AIの仕組みの説明は、資料の本文には入れなくて構いません。聞かれたときのために、手元のメモに一言書いておけば十分です。
今の手間を、1週間だけ数える
社長を動かすのは、ほかの会社の成功談より、自社の数字です。「問い合わせメールの返信に毎日1時間かかっている」「請求書のメールを送るのに月末の2日間が埋まる」といった数字があると、話が具体的になります。
とはいえ、全部の仕事を数える必要はありません。候補を3つほどに絞り、1週間だけ記録します。
- 自分と周りの人が「毎回同じことをしている」と感じる仕事を、3つ書き出す
- その仕事をした日に、始めた時刻と終わった時刻をメモする(1週間)
- 1回あたりの時間と、月に何回あるかを掛けて、月の時間を出す
- その仕事のなかで、写す・まとめる・文を書く、の部分がどれだけあるかに印を付ける
- 印の多い仕事を、資料の「1. 試したい仕事」に書く
数えるのは、その仕事をしている本人にお願いするのが確実です。頼むときは「仕事ぶりを見るためではなく、手間を減らす候補を探すため」と伝えておくと、協力を得やすくなります。
数えた時間に「AIを使えばこれだけ減る」と書き足すのは控えてください。減る量は、試すまで分かりません。資料に書くのは今の時間だけにして、減った量は試したあとで報告します。
試す範囲と確かめ方を書く
社長が「よし、全社でやろう」と言うことは、まずありません。決めやすいのは、小さく試すことです。資料には、試す範囲を次の4つで書きます。
- 使う人:試すのはだれか(1〜2名)
- 期間:いつからいつまでか(1〜2か月)
- 対象:どの仕事の、どの書類か
- やめる目安:どうなったら続けないか(「直す時間が今の作業時間と変わらなければやめる」など)
とくに大事なのが、やめる目安です。やめる条件が書いてあると、社長は「試すだけならいいか」と判断しやすくなります。続けるかどうかを決めるのは、試したあとの会議です。
「危なくないのか」には、守ることで答える
AIの話になると、情報が漏れないか、間違ったことを書かないかを心配する方がたいていいます。資料には、次の2つを短く書いておきます。
- 入れない情報:お客さまの名前や連絡先、取引先との金額など。会社の名義のアカウントを使い、入れた内容がAIの会社の学習に使われない設定を確かめる
- 人が確かめる所:AIの作った文や数字は、外に出す前に担当が読む
個人情報保護委員会も、生成AIサービスの利用について、個人情報を入れるときは利用目的の範囲内か、入れた情報が学習に使われないかを確かめるよう注意を呼びかけています。資料の出典に入れておくと、社長も安心しやすくなります。
県内・全国の調査を添える
「ほかの会社はやっているのか」には、公的な調査や調査会社の調査で答えます。多く並べる必要はありません。1〜2個を、調査の名前と時期をそろえて書きます。
社内説明に添えやすい調査の数字| 調査 | 数字(調査の文言のまま) | 使いどころ |
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| 帝国データバンク水戸支店「茨城県・生成AIに関する企業の動向調査」(2026年3月調査) | 生成AIを業務で「活用している」茨城県内の企業は27.9% | 県内の使われ方。中小企業に限ると24.8% |
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| 同上 | 活用企業では「業務への効果が出ている」が78.1% | 使っている会社の手応え |
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| 同上 | 懸念の1位は「生成 AI を活用すべき業務の範囲」42.2% | 「何に使うか」から決める理由 |
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| 中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(令和8年3月) | AIを既に導入している20.4%、まだ導入していない79.6% | 全国の中小企業の様子 |
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数字を添えるときの注意
- 調査が違えば、聞き方も対象も違います。県内の27.9%と全国の20.4%を並べて「茨城は進んでいる」とは言えません
- 同じ調査のなかでも、全体(27.9%)と中小企業(24.8%)は別の数字です。どちらの数字かを書き分けます
- 効果の78.1%は、生成AIを活用している企業に限った数字です。全部の会社の数字ではありません
- 数字の横に、調査の名前・発表した所・時期を書き、出典のページの場所を資料の下に入れておきます
数字は、社長の背中を押す材料というより、「様子見の会社が多いなかで、小さく試す」という位置づけを伝えるために使います。
調べた記事や営業資料の読み方
調べている途中で、AIの支援会社やソフトの会社の記事、営業資料もたくさん目に入ります。役に立つものも多い一方で、そのまま社内の資料に写すと困るものも混ざっています。次の点を見てから使うかどうかを決めてください。
記事や営業資料を社内資料に使う前に見ること| 見ること | 気をつけたい書き方 | 社内資料での扱い |
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| 数字に出典があるか | 「〇割の会社が導入」と書いてあるのに、調査の名前が無い | 出典の無い数字は使わない |
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| だれの例か | 社名の無い事例、聞き取りの日付が無い事例 | 参考の話として口頭で触れる程度にする |
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| 何を売っている所の記事か | 自社のソフトを入れることが前提の進め方 | 進め方の骨組みだけを借り、ソフト名は外す |
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| 効果の書き方 | 「誰でも」「すぐに」と言い切っている | 自社で試して測る、と書き換える |
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迷ったら、公的機関や調査会社の調査に戻るのが安全です。社内の資料は社長がほかの役員や取引先に見せることもあるので、出どころを説明できる材料だけを使っておきます。
会議では5分で話す
資料ができたら、会議での話し方も決めておきます。社長や役員が集中して聞けるのは、ほかの議題も含めると5分ほどです。資料を頭から読み上げるのではなく、次の順で話します。
- 最初の30秒:「今日は、AIを2か月だけ試してよいかを決めていただきたいです」と、決めてほしいことを先に言う
- 次の1分:試したい仕事と、今かかっている時間を言う
- 次の1分:試す範囲・期間・やめる目安を言う
- 次の1分:守ること(入れない情報、人が確かめる所)を言う
- 最後の1分半:質問を受ける。調査の数字や費用の内訳は、聞かれたら資料の該当する所を示す
質問で答えられないことがあっても、その場で無理に答える必要はありません。「確かめて、次の会議までにお伝えします」と言い、聞かれたことをメモしておきます。持ち帰った質問に次の会議で答えると、それ自体が信頼につながります。
A4 1枚の説明資料の見本
ここまでの中身を、A4 1枚にまとめた見本です。会社名・数字はすべて例です。
例:「AIを試すご提案」(従業員60人ほどの会社の総務担当が作った場合)
1. 試したい仕事:お客さまからの問い合わせメールへの返信。2. 今の手間:1日あたり約50分、月20日で月1,000分ほど(総務の担当が1週間測った数字)。3. 試す範囲と期間:総務の担当1名が、来月から2か月。届いたメール(名前と連絡先は消したもの)と、よくある答えをまとめた社内のメモをAIに見せて返信の下書きを作らせ、担当が直して送る。直す時間が今と変わらなければやめる。4. 守ること:会社の名義のアカウントを使い、学習に使われない設定を確かめる。届いたメールは、お客さまの名前と連絡先を消してからAIに見せる。返信は送る前に担当が読む。5. 県内の調査:生成AIを活用している県内企業は27.9%、活用企業のうち「業務への効果が出ている」は78.1%(帝国データバンク水戸支店、2026年3月調査)。6. 費用の内訳:AIサービスの利用料(毎月)。社外に頼む場合は、相談・試作・作り込みが別。7. 決めてほしいこと:①2か月試してよいか ②使うAIサービスを1つ選んでよいか。
見本のとおり、1枚に収まらない話は資料に入れません。費用の細かい中身や、ほかの候補の仕事は、別の紙にして会議で聞かれたら出します。
会議のあとにすること
会議で「試してよい」となったら、決まったことを1行のメモで残し、試す期間の終わりに報告する日を決めておきます。報告の資料は、同じA4 1枚の「2. 今の手間」の横に「試したあと」の時間を書き足すだけで作れます。
いばらきAIにご相談いただいたら
担当の方からのご相談も、もちろんお受けします。初回のご相談(無料・30分〜)はオンラインで行います。試したい仕事をうかがい、その場でAIを使って、動くものを1つお見せします。その画面や結果を、会議の資料に使っていただいて構いません。
AX推進顧問(月2回の定例・最低3か月)では、初回の定例で、AIを使える仕事の一覧と取り組む順番をお渡しします。社内の会議で「何から始めるか」を決める材料になります。データがあれば、その場で試作もお見せします。
いばらきAIのサービスをまとめた資料「いばらきAI サービスのご案内」は、いま準備中です。メールでご希望をいただいた方には、できあがりしだいお送りします。
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まとめ:今週は、3つの仕事の時間を数え始める
- 資料は、社長が決めたいこと(何から・どこまで・だれが)の順に並べる
- 今の手間は、候補を3つに絞って1週間だけ数える
- 試す範囲・期間・やめる目安・守ることを書く
- 調査は1〜2個、名前と時期をそろえて添える
まずは今週、「毎回同じことをしている」仕事を3つ書き出し、時間を数え始めてください。会議までに1週間分の数字があれば、資料の中心はもうできています。