
つくばには研究所や大学が集まり、AIの研究の話を耳にする機会も多い町です。その一方で、周りの部品加工や計測機器、サービスの会社からは「研究のAIは難しすぎて、うちの仕事とつながらない」という声も聞きます。
研究のAIと、毎日の仕事で使うAIは、目的も進め方も違います。仕事で使うなら、新しいものを生み出すより先に、今ある書類と、今いる人で回る形を考えるほうが近道です。
この記事では、つくば市役所が生成AIを入れたときの工夫を手がかりに、つくば周辺の中小企業が「使う側」としてAIを始める手順を、例を使って説明します。
つくば市の役所が生成AIをどう入れたか
地方自治研究機構の先進事例の資料によると、つくば市は筑波大学との共同研究を兼ねて、職員が使うチャットの道具(LoGoチャット)と連携させた生成AI「AI顧問けんじくん」を入れました。
資料が挙げている特徴は2つです。1つは、AIの答えに出典の情報が示されること。もう1つは、個人情報などを守るために、入力したデータをAIが学習しない仕組みにしていることです。
使い道は限っておらず、技術の種探し、新しい提案の壁打ち、文章の校正、翻訳した文章の確かめ、あいさつ文の作成や手直しなどに使われていると書かれています。令和5年10月時点では、全職員(チャットの道具で2,200アカウント)の3分の1程度が生成AIを使っていました。
使う人と使わない人に分かれた
同じ資料には、庁内のアンケートで「生成AIを使ったことがない」と答えた職員も相当数いて、使う人と使わない人で大きく二分していることが分かった、とあります。使ったことがない職員の中にも、生成AIに期待している人がいたそうです。
つくば市は、令和5年度に全職員向けのオンライン研修と、希望する職員向けのワークショップを行いました。その後も、TENHOの発表によると、2024年5月から2025年3月にかけて「生成AIリテラシー向上研修支援」が行われ、2024年9月11日・12日の応用編のワークショップには81名が参加しています。応用編では、業務の工程を分けて、どこに生成AIを使えるかを話し合うグループワークも行われました。
道具を入れるだけでは、使う人が一部に偏る。だから、仕事の工程を分けて使う場面を一緒に考える。これは、従業員が数十人の会社でも同じように起きることです。
資料では、つくば市でも令和12年をピークに生産年齢人口の減少が見込まれ、職員も減る可能性があるため、業務の効率化が必要だとしています。人が増えている町でも、働く人の先行きは楽観できない、ということです。
研究のAIと、仕事のAIの違い
つくばで「AI」と聞くと、新しい計算の方法や、ロボット、画像を見分ける技術など、研究の話を思い浮かべる方も多いと思います。会社の毎日の仕事で使うAIは、それとはねらいが違います。
研究のAIと、仕事で使うAIの違い| 比べる所 | 研究のAI | 仕事で使うAI |
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| ねらい | まだ無い技術や知見を生み出す | 今ある仕事の手間とまちがいを減らす |
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| 使うデータ | 実験や計測の大量のデータ | 注文書・技術資料・日報・メールなど、ふだんの書類 |
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| 使う人 | 研究者・専門の技術者 | 事務・営業・現場の担当の人 |
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| うまくいったかの見方 | 精度や新しさ | 毎日使われているか、かかる時間が減ったか |
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| 始め方 | テーマを立て、データを集める | 時間を取られている仕事を1つ選び、いつもの書類で試す |
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仕事で使うAIは、多くの場合、すでにある生成AIの道具を、会社の書類に合わせて使う形になります。新しくAIを作る必要はありません。大事なのは、どの仕事に当てるか、だれが使うか、答えをどう確かめるかを決めることです。
研究の街だからこそ、周りに詳しい人がいて「もっと高度なことをしなければ」と感じやすいかもしれません。けれども、会社の手間を減らすのは、多くの場合、地味な書類の仕事です。
反対に、研究機関との共同研究のような大きな取り組みは、時間も人も要ります。まずは毎日の書類の仕事でAIに慣れ、社内に「どの仕事なら任せられるか」の目が育ってから、大きなテーマを考えても遅くはありません。
「出典を示す」「学習に使わせない」の考え方を借りる
つくば市の2つの工夫は、会社でAIを使うときの心配にそのまま答えています。
出典を示す:答えを人が確かめられるようにする
生成AIは、もっともらしい間違いを言うことがあります。答えに「どの資料の、どこに書いてあったか」が付いていれば、聞いた人がその場所を開いて確かめられます。出典の無い答えは、正しいかどうかを判断する手がかりがありません。
学習に使わせない:入れた情報を外に出さない
使うAIの道具によっては、入れた内容がAIの会社の学習に使われる設定になっていることがあります。会社の図面や取引先の情報を入れる前に、学習に使わない設定になっているか、契約の形で確かめておきます。
この2つを会社で取り入れる手順は、次のとおりです。
- 使うAIの道具を決め、入れた内容が学習に使われない設定かどうかを確かめる
- AIに入れてよい資料と、入れない資料を分けて書き出す
- AIに読ませる資料を1か所に集め、資料ごとに名前と版(いつの版か)を付ける
- AIに「答えには資料の名前と、書いてあった場所を毎回添える」と決まった頼み方をさせる
- 出典の付いていない答えは使わない、と社内で決める
- 月に一度、資料の版が新しくなっていないかを確かめ、古い資料を入れ替える
資料の版をそろえるのがいちばん大事
古い版の仕様書と新しい版が混ざっていると、AIはどちらからでも答えてしまいます。出典を示させても、元の資料が古ければ答えも古くなります。資料の入れ替えを、だれがいつするかまで決めておきます。
例:技術資料への社内の質問に答える仕組み
ここでは、つくば周辺で計測機器の部品を作る、従業員60人ほどの会社を例に考えます(例として作った会社です)。
営業の担当は、取引先から「この部品は何度まで使えるか」「前の型と何が違うか」とよく聞かれます。答えは製品の仕様書や過去の試験の記録に書いてありますが、どこにあるかを知っているのは技術の担当の2人だけです。営業から技術へ、1日に何度も問い合わせが入り、技術の担当の手が止まります。
AIに任せる所と、人が残る所
技術資料への質問で、AIと人の受け持ち(例)| 場面 | AIに任せる所 | 人が残る所 |
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| 仕様の質問 | 仕様書から答えを探し、資料名とページを添える | 営業が出典を開いて数字を確かめる |
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| 前の型との違い | 新旧の仕様書を並べて、違う項目を一覧にする | 技術の担当が一覧に目を通す |
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| 資料に無い質問 | 「資料に書いていない」と返す | 技術の担当が答え、答えを資料に書き足す |
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| 取引先への返事 | 確かめた内容から返事の下書きを作る | 営業が言い回しを直して送る |
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3つ目の行が大切です。資料に無いことをAIに推測で答えさせると、もっともらしい間違いが取引先に届くおそれがあります。「書いていない」と言わせ、人が答えて資料を育てる形にします。
始めるときの流れ
- この1か月に営業から技術へ来た質問を、技術の担当に思い出して書き出してもらう
- よく来る質問に答えられる仕様書と試験の記録を集め、最新の版だけを残す
- まずはふだんの生成AIの画面で、集めた資料を読ませて質問してみる
- 答えと出典が合っていた質問の種類を、営業の担当に使ってもらう
- 毎日使われ、資料が増えてきたら、社内のチャットから聞ける小さな道具にする
技術の担当の手が止まる回数が減れば、その時間を開発や品質の仕事に戻せます。研究の街の会社にとっては、AIを研究に使うより先に、研究や開発をする人の時間を守るためにAIを使う、という順番もあります。
使う人を一部に偏らせない工夫
つくば市の資料にあった「使う人と使わない人で大きく二分」は、会社でも起きやすいことです。帝国データバンクが2026年3月に県内の会社に聞いた調査でも、生成AIの悪影響として「AIを使いこなせる社員と使いこなせない社員の間で、能力や成果の格差が拡大した」が17.1%ありました。
使わない人が悪いわけではありません。多くの場合、「自分の仕事のどこで使えばよいか」が見えていないだけです。次の3つの工夫で、使う人を広げられます。
使う人を広げる3つの工夫| 工夫 | やること | 上の例では |
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| 場面を決める | 「この仕事はAIに聞く」と、使う場面を1つ決めて全員にそろえる | 仕様の質問は、技術の担当より先にAIに聞く |
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| 頼み方をそろえる | うまくいった頼み方を文にして、だれでも写して使えるようにする | 「資料名と場所を添えて答えて」という頼み方を共有する |
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| 道具にする | 毎日使うものは、頼み方を考えなくても使える画面にする | 社内のチャットから質問するだけで答えが返る形にする |
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3つ目まで進むと、AIに詳しいかどうかに関係なく、同じ形で使えるようになります。詳しい人だけが得をする状態を、道具の形で埋めるという考え方です。
いばらきAIにご相談いただいたら
いばらきAIの無料相談は、オンラインで30分〜です。メールで、会社名と、困っている仕事を一言お送りください。技術資料への質問のように、だれかの手が止まっている仕事があれば、その様子を書いていただくと話が早くなります。
続けて取り組む場合は、AX推進顧問(月2回の定例・最低3か月)をご提案します。初回の定例で、AIを使える仕事の一覧と、取り組む順番をお渡しします。資料をお預かりできれば、その場で質問に答える試作もお見せします。
毎日使う道具にする段階になったら、開発として、話を聞いたエンジニアがそのまま作ります。アカウントは御社の名義で作り、資料も御社の手元に置いたまま使える形にします。
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まとめ:手が止まっている人の質問を書き出す
- 仕事で使うAIは、研究のAIと違い、今ある書類と今いる人で回る形を考える
- つくば市の「出典を示す」「学習に使わせない」は、会社でもそのまま借りられる
- 道具を入れるだけでは使う人が偏るので、仕事の工程を分けて使う場面を一緒に決める
まずは、社内で同じ質問に何度も答えている人に、この1か月に受けた質問を書き出してもらってください。その一覧が、AIを当てる最初の仕事になります。答えが書いてある資料がどこにあるかも、一緒に書き添えておくと次の手順に進みやすくなります。