茨城の会社とAI公開 約9分で読めます

研究の街の中小企業は、AIをどう使えばいいのか?

つくば周辺の中小企業のAI活用|研究の街で使う側から始める

執筆いばらきAI編集部

この記事でわかること

  • つくば市は筑波大学との共同研究を兼ねて生成AIを入れ、令和5年10月時点で全職員の3分の1程度が使っていた
  • 同じ市で「使う人と使わない人で大きく二分」していることも分かり、研修を続けている
  • 「答えの出典を示す」「入れた情報を学習に使わせない」の2つは、会社でもそのまま借りられる
  • 例として、技術資料への社内の質問に、出典つきで答える仕組みの作り方を紹介する
白い研究室の顕微鏡

つくばには研究所や大学が集まり、AIの研究の話を耳にする機会も多い町です。その一方で、周りの部品加工や計測機器、サービスの会社からは「研究のAIは難しすぎて、うちの仕事とつながらない」という声も聞きます。

研究のAIと、毎日の仕事で使うAIは、目的も進め方も違います。仕事で使うなら、新しいものを生み出すより先に、今ある書類と、今いる人で回る形を考えるほうが近道です。

この記事では、つくば市役所が生成AIを入れたときの工夫を手がかりに、つくば周辺の中小企業が「使う側」としてAIを始める手順を、例を使って説明します。

つくば市の役所が生成AIをどう入れたか

地方自治研究機構の先進事例の資料によると、つくば市は筑波大学との共同研究を兼ねて、職員が使うチャットの道具(LoGoチャット)と連携させた生成AI「AI顧問けんじくん」を入れました。

資料が挙げている特徴は2つです。1つは、AIの答えに出典の情報が示されること。もう1つは、個人情報などを守るために、入力したデータをAIが学習しない仕組みにしていることです。

使い道は限っておらず、技術の種探し、新しい提案の壁打ち、文章の校正、翻訳した文章の確かめ、あいさつ文の作成や手直しなどに使われていると書かれています。令和5年10月時点では、全職員(チャットの道具で2,200アカウント)の3分の1程度が生成AIを使っていました。

使う人と使わない人に分かれた

同じ資料には、庁内のアンケートで「生成AIを使ったことがない」と答えた職員も相当数いて、使う人と使わない人で大きく二分していることが分かった、とあります。使ったことがない職員の中にも、生成AIに期待している人がいたそうです。

つくば市は、令和5年度に全職員向けのオンライン研修と、希望する職員向けのワークショップを行いました。その後も、TENHOの発表によると、2024年5月から2025年3月にかけて「生成AIリテラシー向上研修支援」が行われ、2024年9月11日・12日の応用編のワークショップには81名が参加しています。応用編では、業務の工程を分けて、どこに生成AIを使えるかを話し合うグループワークも行われました。

道具を入れるだけでは、使う人が一部に偏る。だから、仕事の工程を分けて使う場面を一緒に考える。これは、従業員が数十人の会社でも同じように起きることです。

資料では、つくば市でも令和12年をピークに生産年齢人口の減少が見込まれ、職員も減る可能性があるため、業務の効率化が必要だとしています。人が増えている町でも、働く人の先行きは楽観できない、ということです。

研究のAIと、仕事のAIの違い

つくばで「AI」と聞くと、新しい計算の方法や、ロボット、画像を見分ける技術など、研究の話を思い浮かべる方も多いと思います。会社の毎日の仕事で使うAIは、それとはねらいが違います。

研究のAIと、仕事で使うAIの違い
比べる所研究のAI仕事で使うAI
ねらいまだ無い技術や知見を生み出す今ある仕事の手間とまちがいを減らす
使うデータ実験や計測の大量のデータ注文書・技術資料・日報・メールなど、ふだんの書類
使う人研究者・専門の技術者事務・営業・現場の担当の人
うまくいったかの見方精度や新しさ毎日使われているか、かかる時間が減ったか
始め方テーマを立て、データを集める時間を取られている仕事を1つ選び、いつもの書類で試す

仕事で使うAIは、多くの場合、すでにある生成AIの道具を、会社の書類に合わせて使う形になります。新しくAIを作る必要はありません。大事なのは、どの仕事に当てるか、だれが使うか、答えをどう確かめるかを決めることです。

研究の街だからこそ、周りに詳しい人がいて「もっと高度なことをしなければ」と感じやすいかもしれません。けれども、会社の手間を減らすのは、多くの場合、地味な書類の仕事です。

反対に、研究機関との共同研究のような大きな取り組みは、時間も人も要ります。まずは毎日の書類の仕事でAIに慣れ、社内に「どの仕事なら任せられるか」の目が育ってから、大きなテーマを考えても遅くはありません。

「出典を示す」「学習に使わせない」の考え方を借りる

つくば市の2つの工夫は、会社でAIを使うときの心配にそのまま答えています。

出典を示す:答えを人が確かめられるようにする

生成AIは、もっともらしい間違いを言うことがあります。答えに「どの資料の、どこに書いてあったか」が付いていれば、聞いた人がその場所を開いて確かめられます。出典の無い答えは、正しいかどうかを判断する手がかりがありません。

学習に使わせない:入れた情報を外に出さない

使うAIの道具によっては、入れた内容がAIの会社の学習に使われる設定になっていることがあります。会社の図面や取引先の情報を入れる前に、学習に使わない設定になっているか、契約の形で確かめておきます。

この2つを会社で取り入れる手順は、次のとおりです。

  1. 使うAIの道具を決め、入れた内容が学習に使われない設定かどうかを確かめる
  2. AIに入れてよい資料と、入れない資料を分けて書き出す
  3. AIに読ませる資料を1か所に集め、資料ごとに名前と版(いつの版か)を付ける
  4. AIに「答えには資料の名前と、書いてあった場所を毎回添える」と決まった頼み方をさせる
  5. 出典の付いていない答えは使わない、と社内で決める
  6. 月に一度、資料の版が新しくなっていないかを確かめ、古い資料を入れ替える

資料の版をそろえるのがいちばん大事

古い版の仕様書と新しい版が混ざっていると、AIはどちらからでも答えてしまいます。出典を示させても、元の資料が古ければ答えも古くなります。資料の入れ替えを、だれがいつするかまで決めておきます。

例:技術資料への社内の質問に答える仕組み

ここでは、つくば周辺で計測機器の部品を作る、従業員60人ほどの会社を例に考えます(例として作った会社です)。

営業の担当は、取引先から「この部品は何度まで使えるか」「前の型と何が違うか」とよく聞かれます。答えは製品の仕様書や過去の試験の記録に書いてありますが、どこにあるかを知っているのは技術の担当の2人だけです。営業から技術へ、1日に何度も問い合わせが入り、技術の担当の手が止まります。

AIに任せる所と、人が残る所

技術資料への質問で、AIと人の受け持ち(例)
場面AIに任せる所人が残る所
仕様の質問仕様書から答えを探し、資料名とページを添える営業が出典を開いて数字を確かめる
前の型との違い新旧の仕様書を並べて、違う項目を一覧にする技術の担当が一覧に目を通す
資料に無い質問「資料に書いていない」と返す技術の担当が答え、答えを資料に書き足す
取引先への返事確かめた内容から返事の下書きを作る営業が言い回しを直して送る

3つ目の行が大切です。資料に無いことをAIに推測で答えさせると、もっともらしい間違いが取引先に届くおそれがあります。「書いていない」と言わせ、人が答えて資料を育てる形にします。

始めるときの流れ

  1. この1か月に営業から技術へ来た質問を、技術の担当に思い出して書き出してもらう
  2. よく来る質問に答えられる仕様書と試験の記録を集め、最新の版だけを残す
  3. まずはふだんの生成AIの画面で、集めた資料を読ませて質問してみる
  4. 答えと出典が合っていた質問の種類を、営業の担当に使ってもらう
  5. 毎日使われ、資料が増えてきたら、社内のチャットから聞ける小さな道具にする

技術の担当の手が止まる回数が減れば、その時間を開発や品質の仕事に戻せます。研究の街の会社にとっては、AIを研究に使うより先に、研究や開発をする人の時間を守るためにAIを使う、という順番もあります。

使う人を一部に偏らせない工夫

つくば市の資料にあった「使う人と使わない人で大きく二分」は、会社でも起きやすいことです。帝国データバンクが2026年3月に県内の会社に聞いた調査でも、生成AIの悪影響として「AIを使いこなせる社員と使いこなせない社員の間で、能力や成果の格差が拡大した」が17.1%ありました。

使わない人が悪いわけではありません。多くの場合、「自分の仕事のどこで使えばよいか」が見えていないだけです。次の3つの工夫で、使う人を広げられます。

使う人を広げる3つの工夫
工夫やること上の例では
場面を決める「この仕事はAIに聞く」と、使う場面を1つ決めて全員にそろえる仕様の質問は、技術の担当より先にAIに聞く
頼み方をそろえるうまくいった頼み方を文にして、だれでも写して使えるようにする「資料名と場所を添えて答えて」という頼み方を共有する
道具にする毎日使うものは、頼み方を考えなくても使える画面にする社内のチャットから質問するだけで答えが返る形にする

3つ目まで進むと、AIに詳しいかどうかに関係なく、同じ形で使えるようになります。詳しい人だけが得をする状態を、道具の形で埋めるという考え方です。

いばらきAIにご相談いただいたら

いばらきAIの無料相談は、オンラインで30分〜です。メールで、会社名と、困っている仕事を一言お送りください。技術資料への質問のように、だれかの手が止まっている仕事があれば、その様子を書いていただくと話が早くなります。

続けて取り組む場合は、AX推進顧問(月2回の定例・最低3か月)をご提案します。初回の定例で、AIを使える仕事の一覧と、取り組む順番をお渡しします。資料をお預かりできれば、その場で質問に答える試作もお見せします。

毎日使う道具にする段階になったら、開発として、話を聞いたエンジニアがそのまま作ります。アカウントは御社の名義で作り、資料も御社の手元に置いたまま使える形にします。

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まとめ:手が止まっている人の質問を書き出す

  • 仕事で使うAIは、研究のAIと違い、今ある書類と今いる人で回る形を考える
  • つくば市の「出典を示す」「学習に使わせない」は、会社でもそのまま借りられる
  • 道具を入れるだけでは使う人が偏るので、仕事の工程を分けて使う場面を一緒に決める

まずは、社内で同じ質問に何度も答えている人に、この1か月に受けた質問を書き出してもらってください。その一覧が、AIを当てる最初の仕事になります。答えが書いてある資料がどこにあるかも、一緒に書き添えておくと次の手順に進みやすくなります。

出典・参考

よくある質問

研究開発をしていない会社でも、つくばのAIの話は関係ありますか。

関係あります。つくば市役所の例は研究ではなく、文章の校正や問い合わせのような毎日の仕事にAIを使ったものです。

会社でも、仕様書やメールなど、ふだんの書類の仕事から始められます。

AIに社内の資料を読ませても大丈夫ですか。

入れた内容が学習に使われない設定を確かめてから使います。そのうえで、入れてよい資料と入れない資料を先に分けます。

取引先との約束で外に出せない資料は、入れない側に入れておきます。

AIが資料に無いことを答えてしまいませんか。

答えてしまうことがあります。そのため、答えに資料名と場所を添えさせ、出典の無い答えは使わないと決めます。

資料に無い質問には「書いていない」と返させ、人が答えて資料に書き足す形にします。

仕様書や試験の記録が紙でしか残っていません。

紙の資料も使えます。スキャンや写真にした資料を、AIで文字に起こしてから読ませます。

起こした数字は読み違いがあるので、よく聞かれる項目から人が元の紙と見比べて確かめます。全部を一度に起こす必要はなく、質問の多い資料から順に進めます。

社員の一部しかAIを使いません。どうすればよいですか。

仕事ごとに使う場面を決めると、使う人が広がりやすくなります。つくば市でも、使う人と使わない人に分かれたため、業務の工程を分けて考える研修を行っています。

「この質問はAIに聞く」のように、場面を1つ決めて全員で使うところから始めます。

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  2. 初回のご相談返信で日程を決め、オンラインでお話をうかがいます。
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