
請求書の発行を経理の社員に任せた。ところが月末になると気になって、結局、全部の請求書をもう一度自分で見てしまう。社員の方も「どうせ社長が見るから」と、確かめを社長に預けるようになる。任せたはずの仕事が、二人分の手間になって戻ってきます。
社長が手放せないのは、社員を信じていないからではありません。任せたあとに、うまくいっているかどうかを知る方法がないからです。知る方法があれば、全部を見なくても安心できます。
この記事では、任せられない理由をほどき、確かめる所だけを決めるやり方、確かめる日と見る数字の決め方を説明します。任せる仕事の選び方は「社長の仕事を減らすには」の記事で扱ったので、ここでは、選んだ仕事を任せたあとの仕組みに絞ります。
任せられない理由
「任せたいけれど任せられない」という社長の話をうかがうと、理由はだいたい次の4つのどれかに当てはまります。理由によって、打つ手が変わります。
任せられない理由と、打つ手| 理由 | 社長の口から出る言葉 | 打つ手 |
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| 様子が見えない | 「ちゃんとやれているか分からない」 | 確かめる日と見る数字を決める |
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| 間違えたときが怖い | 「取引先に迷惑がかかったら困る」 | 確かめる所を決め、そこだけは二人で見る |
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| やり方が自分の頭の中にしかない | 「説明するより自分でやったほうが早い」 | 手順を書き出す(話してもらう形でもよい) |
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| 社員の手が空いていない | 「みんな忙しそうで頼みにくい」 | 社員の手元の作業を先にAIや道具に移す |
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この記事で扱うのは、1つ目と2つ目です。3つ目の「やり方が頭の中にしかない」は、一人しか知らない仕事を手順書にする記事で、4つ目は社長の仕事を減らす記事で扱っています。
一人しか知らない仕事を、AIで手順書にする
「全部見る」は、任せていないのと同じ
様子が見えない不安から、社長が全部を見直すようになると、社員の方は自分で確かめるのをやめます。確かめる人が社長一人になり、社長が忙しい月には、だれも確かめないまま仕事が出ていきます。全部を見る形は、安心に見えて、いちばんもろい形です。
反対に、確かめる所が決まっていると、社員の方は「ここは社長が見る、ここは自分の責任」と分かります。責任の線がはっきりすると、任された人の確かめ方も丁寧になります。
確かめる所だけを決める
任せた仕事のすべての手順を確かめる必要はありません。確かめる所は、「ここを間違えると、取り返しがつかない、または取引先に迷惑がかかる所」だけです。それ以外は、任せた人の責任で進めてもらいます。
確かめる所の決め方
- 任せる仕事の手順を、上から順に1行ずつ書き出す
- 各行に「ここを間違えたら、どうなるか」を一言で書く
- 「取引先に迷惑」「お金が合わない」「あとから直せない」のどれかに当たる行に印を付ける
- 印の付いた行だけを、確かめる所として決める(多くて3〜4か所)
- 確かめる所ごとに、だれが、何と見比べて確かめるかを書く
例:請求書の発行で確かめる所
例として、請求書の発行の手順が10行あったとします。「間違えたらどうなるか」を書いていくと、印が付くのは「金額」「送り先」「支払期日」の3行でした。この3つだけを、送る前に社長か別の人が見比べます。ほかの7行(番号を振る、控えを保存する、など)は、任せた人の責任にします。
確かめる所を1枚の紙にする
決めた確かめる所は、1枚の紙にまとめて、任せた人と社長の両方が持ちます。紙には「確かめる所」「何と見比べるか」「だれが見るか」の3列だけを置きます。見る人が替わっても、紙を見れば同じ確かめ方ができます。
この紙を作るときに、AIが手伝えます。手順を話して書き起こした文や、いつもの手順のメモをAIに渡し、「間違えると取引先に迷惑がかかる手順を挙げて」と頼むと、印を付ける候補が出てきます。AIの挙げた候補は抜けや見当違いもあるので、最後は社長と任せる人とで決めます。
確かめる所は、任せる人と一緒に決める
確かめる所を社長が一人で決めて渡すと、任された人には「見張られる所の一覧」に見えます。一緒に手順を書き出し、「ここを間違えたら困るね」と話しながら印を付けると、同じ紙が「二人で守る所の一覧」になります。
任せる人は、実際に手を動かす側なので、社長が気づいていない危ない所を知っていることがあります。「この取引先は、毎月請求の書式を変えてくる」「この品目だけ単価が季節で変わる」。こうした話は、一緒に書き出す場でしか出てきません。
確かめる日と見る数字を決める
確かめる所が決まったら、次は「いつ見るか」と「何を見るか」です。毎日少しずつ気にするより、見る日を決めて、その日にまとめて見るほうが、社長も任された人も楽になります。
仕事の種類ごとの、確かめる日の目安| 仕事の種類 | 確かめる日の目安 | 見るもの |
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| 毎日くり返す仕事(受注の入力、出荷の手配など) | 週に1回、決まった曜日 | その週の件数と、直しの数 |
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| 月に1回の仕事(請求、締め、給与の準備など) | 送る前と、終わった翌週の2回 | 確かめる所の結果と、残っている件数 |
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| 期限のある仕事(見積もり、申請など) | 期限の数日前 | 進み具合と、困っていること |
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見る数字は3つまで
見る数字を増やすと、見るだけで時間がかかり、また全部を見るのと変わらなくなります。数字は3つまでに絞ります。選び方の目安は、「量」「遅れ」「直し」を1つずつです。
- 量:その期間にこなした件数。急に減ったら、何か詰まっている合図です。
- 遅れ:期限を過ぎた件数、または残っている件数。0でなければ、理由を聞きます。
- 直し:差し戻した件数、あとから直した件数。増えていれば、手順か確かめる所を見直します。
数字を見たら、任された人と5分だけ話します。数字がいつもどおりなら「ありがとう」で終わり。いつもと違えば「何があった」と聞く。この短いやり取りが続くと、社長は全部を見なくても様子が分かり、任された人は困りごとを早めに相談できるようになります。
確かめる日を、予定表に先に入れる
確かめる日は、決めただけでは忙しい月に飛ばされます。社長の予定表に、任された人との10分を先に入れておきます。出張や来客と重なったときは、日をずらすのではなく、副社長や部長など代わりに見る人を決めておくと、仕組みが止まりません。
確かめる日を飛ばすと、任された人は「もう見なくていいのか」と受け取ります。反対に、短くても決まった日に見る習慣が続いていると、「見てもらえている」という安心が残ります。続けることそのものが、任された人へのいちばんの合図です。
数字のまとめは、人の手でやらない
見る数字を、任された人が毎週手で数えて表にするのでは、その人の仕事が増えるだけです。件数や遅れの数は、ふだんの記録から数えられることが多いので、AIや業務ツールに任せます。
たとえば、受注の記録がExcelにあるなら、その週の件数と期限を過ぎた件数を数えて、決まった曜日に1枚にまとめる仕組みを作れます。日報や連絡のメッセージから、困りごとの言葉をAIに拾わせて添える形もあります。まとめるのは道具、数字を見て話すのが人、と分けます。
例:週に1回届く1枚の中身
例として、1枚の上に3つの数字を大きく並べ、それぞれの横に先週の数字を小さく添えます。下には「いつもと違う所」を2〜3行だけ。たとえば「期限を過ぎた件数が2件(先週0件)。どちらも同じ取引先」。社長は上の数字と下の数行を見て、気になる所だけを聞けば済みます。
確かめる所の一部を、道具に先回りさせることもできます。請求書なら、金額が前の月と大きく違う取引先に印を付ける、支払期日が空欄のものを知らせる、といった形です。人が見る前に目印が付いていれば、確かめる時間はさらに短くなります。目印はあくまで手がかりで、最後に見るのは人です。
例:3つの数字だけ見る
ここからは、ある仕事を任せたときの流れを、例で通して見ます。会社と数字は説明のための例です。
例:経理の社員に請求の仕事を任せた社長
例として、従業員40人ほどの会社で、これまで社長が自分で出していた月末の請求書を、経理の社員に任せることにしました。毎月の請求書はおよそ60通です。
- 手順を書き出し、確かめる所を「金額」「送り先」「支払期日」の3つに決めた
- 確かめる日を「送る前日」と「翌月10日」の2回に決めた
- 見る数字を「出した請求書の数」「支払期日を過ぎても入金のない件数」「送ったあとに直した件数」の3つに決めた
- 数字は会計の記録から自動で数え、翌月10日に社長へ1枚で届く形にした
- 翌月10日に、社長と経理の社員で10分だけ数字を見て話す
最初の月、「送ったあとに直した件数」が4件ありました。話を聞くと、どれも取引先の担当の方が替わって、送り先が古いままだったものでした。そこで、確かめる所の「送り先」に「取引先から担当替わりの連絡が来ていないか」を足しました。翌月は0件になりました。
社長が見たのは、月に1回の1枚と、送る前日の3か所だけです。60通を全部見直していたころと比べると、社長の手元に残る作業はずっと少なくなります。経理の社員の方にとっても、自分で確かめる所がはっきりすれば、どこまでが自分の責任かで迷わずに済みます。こうした状態になれば、この仕組みはうまく回っています(ここまで、すべて説明のための例です)。
仕事が変われば、見る数字も変わる
同じ考え方でも、任せる仕事が違えば、確かめる所と見る数字は変わります。もう1つ、別の仕事で並べてみます。
例:仕事ごとの確かめる所と、見る3つの数字(説明のための例)| 任せた仕事 | 確かめる所 | 量 | 遅れ | 直し |
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| 月末の請求書 | 金額・送り先・支払期日 | 出した請求書の数 | 期日を過ぎても入金のない件数 | 送ったあとに直した件数 |
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| 資材の発注 | 数量・単価・納期 | 出した発注の数 | 納期に届かなかった件数 | 数量を直した件数 |
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| お客さまへの見積もり | 単価・値引き・有効期限 | 出した見積もりの数 | 回答の期限を過ぎた件数 | 出し直した件数 |
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表を見ると、どの仕事でも「量・遅れ・直し」の形は同じで、中身だけが変わっているのが分かります。新しい仕事を任せるときは、この3列を埋めるところから始めると、確かめる仕組みを短い時間で作れます。
うまく回らないときの見直し方
数字を見ても話すことがない月が続くなら、見る数字が仕事に合っていない可能性があります。反対に、毎回いつもと違う数字が出るなら、確かめる所が足りないか、手順に無理があります。3か月ほど回したら、確かめる所と見る数字を、任された人と一緒に見直します。
見直しのときは、「この3か月で、確かめる所で見つかった間違いは何件あったか」も数えます。0件が続いている確かめる所は、任された人に任せきってよい所かもしれません。確かめる所を減らせたら、それは任せる仕組みが育った証拠です。社長の手元から、もう一歩離れられます。
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AX推進顧問では、月2回の定例で社内の仕事を知り、AIに任せる仕事と取り組む順番を決めて進めます。社長の手元にある仕事を社員の方に任せたいというご相談なら、任せる仕事の確かめる所と見る数字を、定例の中で一緒に決めます。
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まとめ:任せたい仕事の手順に、印を付けてみる
- 手放せない理由が「様子が見えない」なら、確かめる仕組みで解ける
- 確かめる所は、間違えると困る所だけ。多くて3〜4か所
- 確かめる日と、見る数字3つ(量・遅れ・直し)を先に決める
- 数字のまとめは道具に任せ、社長は数字を見て話す
まずは、任せたいと思っている仕事を1つ選び、手順を1行ずつ書き出して、「間違えたらどうなるか」を書き添えてみてください。印が付くのが3か所ほどなら、その仕事はもう任せられます。任せる仕事そのものの選び方は、次の記事もあわせてどうぞ。
社長の仕事を減らすには|手元の作業を人とAIに1つずつ渡す